兎みたいな白い肌と猫みたいな目が酷く不釣合いだと思った(そしてその不釣合いこそがこの世界の美しさの要因だと知ったのはもう少ししてからだ)






初夏の更に初め。要するに少し気温が上がり始めた頃。
淡く穏やかだった緑は急に色濃く変化し始め、空の色も、何もかもが前よりもっと目に付くようになった。

此処は塾、だった。同時に俺や銀時みたいに親のいない子どもを育てるための大きな家でもあった。
夕暮れ時、多くの生徒が帰った中で俺と銀時を含む五人の子ども(そのうち今も消息が知れているのは俺と銀時だけ)が、茜色の空を背中いっぱいに負って遊んでいた。

鬼ごっことは名ばかりの、今日の掃除当番の押し付け合いをしていた時だ。
近くの橋まで生徒の見送りに出ていた先生が、茜色の空と、小さな何かを引き連れて帰ってきた。


「しょーよー先生、おかえりなさい!」

五人の子どもは当番の押し付け合いをいっせいに止め(どうせ後ですぐに再開されるだろう)松陽先生の周りに駆け寄った。

額に浮かんだ汗を着物の袖で拭いながら「ただいま、みなさん相変わらず元気ですね」なんていう声を耳にしていると、銀時が、聞いた。

「せんせー、その子誰?」

「この子は今日からの新しい家族です。、良かったですね、女の子の家族が出来ました。」

銀時は少し考え込んでから「よろしくな、俺坂田銀時!」と子どもらしく元気よく掌を差し出した。
しかしそれは握り返されることがなく、それどころかその少女は下げがちの視線を銀時に向けようとすらしなかった。

「・・・・・?」

「銀時、この子はまだ少し疲れていてね。」

お前のことが嫌いなわけではないよ、と続いた言葉に、眉を顰めていた銀時は表情を明るくした。
その間、俺はずっとその白い少女から目が離せなかった。初めてだったのだ、こんな人間を目にしたのが。

兎のように肌は青白く色素が薄いのかと思いきや髪は真っ黒、猫のように少しつり上がり気味で大きな瞳はずっと一点を見つめているようだがどうやら焦点は合っていないらしい。
よく見ると唇が微かに震えていた。もう寒さなど感じはしない季節だというのに。

妙な違和感はそれだけじゃなかった。
白いはずの手元と足元が、赤黒く、汚れていたのだ。








「なぁ、あの子、何だと思う?」

普段はご飯時は静かにしていなくてはいけないなんて教えを微塵も守っていない銀時が、今日ばかりは少し静かだった。
自分が原因のくせに妙な静寂感に耐えられなくなったのか、銀時は誰もが思っているであろう、しかし子どもながらに聞いてはいけないのではないかという躊躇いを持っていた疑問を少し気まずそうに口にした。



―――私は、今日はと夕食を取ります。


あの少女の名がだということを、何気ない松陽先生の言葉でようやく知った。

何でだよ、みんな一緒に食べればいい、そんな抗議の声に松陽先生は苦く笑った。隣に突っ立ったままのは相変わらず俯きがちだった。
手足の汚れは綺麗になり、着物も新しくなっていた。恐らく風呂にでも入れられたのだろう。



「何、って、どういうことだよ。」

「だって、何かちょっと変だったぜ、アイツ。」

「お前思いっきり拒否られてたもんな。」

「ちがっ、あれは違うってせんせーが・・・!」


慌てる銀時にみんなが笑った。俺以外のみんな、が。



「・・・血。」

「あ?何だよ高杉。」

「血が、ついてた。アイツの手足に・・・多分。」




思えば、何とも薄気味悪い出会いだった。

白い肌の手先と足先に血を付着させた奇妙な少女。

まさか数多の修羅場を共に駆け巡る破目になるなんて。一体、誰が予想していただろう(あるいは、先生は、もしかしたら。)