例えそれだけが本当なのだとしても ーっ、て・・・・・あれ?」
「あぁ、おかえりターレス。そういや今日帰りだっけ。」
「なぁ、は?」
「あの子なら今日は来てないよ。どうせまた部屋でだらだらしてんじゃない?」
「ふぅん・・・・何だ、なら直接行きゃ良かった。」
「ついでにちょっと飲んでく?」
「いや、いい。祝賀パーティーはちゃんと事前準備してもっと派手に豪華にやってくれよ。」


じゃぁな、とたった今酒場に顔を出した男は、彼にしては珍しく二分も経たないうちにくるりと背を向けて行ってしまった。


「祝賀パーティーって・・・まぁいいや。ほらお前ら、まだまだ飲むぞーっ!!」

正反対に、二時間以上居座り続ける女もまた、此処に。










「ったく、何でまた今日に限って・・・・」

いつもならこの時間帯は大概酒場に居るからと、マシンから出るなり彼女の部屋も素通りして急いで飛んできたというのに。
いないというのなら、来た道をもう一度歩き戻らなければならない。

(ま、アイツの不規則は今に始まったことじゃねーけどよ。)

意外にも一日を過ごす為の規則が少ないことに驚いたのはもう一年以上前の話だ。
朝起きてから就寝に至るまで、彼女はまさに「自由気まま」に日々を過ごしているように見える。

(・・・いや、半分は俺のせいか?)

自覚してるならもう少し早く寝かせてくれ!という彼女の声が今にも聞こえてきそうで。

思わず頬が緩むのを自覚しながら、ターレスは専用のカードキーを差し込んだ。




、いるか?」
「ぎゃっ!!」

妙な声と共にがつんという嫌な音も聞こえた。
あんなに会いたかった可愛い可愛い彼女は目の前で逆さまだ。

「お、オカエリ・・・・・」
「・・・・あんま嬉しくねぇんだけど・・・・とりあえず、大丈夫か。」


は中途半端にベッドの上に残っていた下半身をずるずると床に引きずり下ろし、上半身を起こして床に座った。


「あーびっくりした・・・・」
「ワリ、寝てた?」
「いや、寝てたようなそうでもないような・・・・・」
「何だそりゃ。」


久しぶりに見た彼女は相変わらずの自然体だ。
ゆっくりと近付き、に向き合うようにして自分も床に座り込んだ。


。」
「ん、」


手を添えて、耳、額、頬、瞼、それから唇に。
不規則なの中にターレスが作り出したそれは、つい先ほどまでの死の中の荒野を恐ろしく簡単に忘れさせてくれる。


「ターレー・・・・・」


唇を解放すると、がぐてーっともたれかかってきた。


「どうした?やけに素直じゃんよ。」
「む、あんたはまたそういう・・・」
「わーってる、寂しかったんだろ?」
「・・・・・・・・・・。」


沈黙は肯定。
何でこんな可愛いんだ?と他人がみれば頭に虫が沸いたんじゃないかと疑うようなことを真剣に考えながら、珍しく甘えている恋人の髪を撫でる。

暫くすると、が体を起こしぺたぺたと腕を触り始めた。


「オイ、さっきマシン入ったから何も残ってないぜ。」
「でも何か落ち着かない・・・・・」
「心配症だよな、は。」


それもまた、不規則なの規則の一つ。
とりあえず見れるところだけ確認して、傷がないことがわかると、よし、と満足そうに頷いた。

「・・・本当はね、傷があろうが何だろうが、無事に帰って来てくれればそれでいいんだけどね。」


待つ女って辛いんだよねぇ、とは大袈裟に溜め息を吐いてみせる。


「あのな、別にだけが待ってるわけじゃねぇだろ。場合によっちゃ俺も待たされてるじゃねーか。」
「ご最も。・・・・そういや、次の予定は?」
「あーそういや二日後とか何とか・・・・」
「・・・・・・・・・・・最近こき使われてない?」
「言うな、他人に言われると余計悲しくなる。」


半分は本当、半分は被害妄想。
はああぁぁ、と今度はターレスが大きく溜め息を吐くと、は困ったように笑った。


「あ、お風呂入る?」
「一緒に?」
「血風呂に入ってみたいの?」
「・・・・・オトナシク一人で入りマス。」


ターレスは少し名残惜しそうに腕をほどいて立ち上がり、じっとを見下ろした。


「ぇ、何?」
「いや・・・・上がってからが楽しみだな、と思ってよ。」
「んなっ、・・・・・・・・もう・・・・・・・」


あんまりにも笑顔で言うから、ついつい罵声も否定も忘れてしまった。


上機嫌に風呂場へ向かうターレスを見て、ゆっくりと安堵が広まっていくのをは感じる。

とても脆くて壊れやすいそれ

は、それでもそのために待っているのだなぁとぼんやり考えた。











「アレ、にターレスじゃない。」

思う存分二日間を過ごし、今一度仕事へ向かうというターレスを見送りに行く途中でに出会った。


「仕事?」
「ん、私は見送りだけどね。」
「ふーん・・・・ま、せいぜい死なないように頑張んなね。」
「オイ。」
「じゃ、私今からまた飲みに行くから!!」


じゃーねん、と軽く手を振りはその場を後にした。


「昼間っからよくやるよ、何であんなに酒好きなのかな・・・・・」
が弱すぎんだって。」


ゆっくりと歩き始めながら、何となく、出発前に友人知人に会うのは嬉しくないと思った。
別れの言葉が、自分達の背後に常に息を潜めている死の影を刺激するようで。
もう一度会えるだろうかという思いが頭をかすめ、悲しくなるわけではないがほんの少し胸の奥が痛む。





「じゃ、行ってくるな。」
「ん。気を付けてね。」
「あぁ。すぐ帰ってくるから・・・・・・・・また、な。」
「うん。また、ね。」


の額に軽く口付けを落としてから、ターレスはポッドに乗り込んだ。



「絶対だよ。」


また
明日
未来

それがどんなに儚くて悲しいものかなんて嫌というほどわかってる。
彼が無事に戻ってくるという保証なんてどこにもない。
誰かを殺すことでしか自分を確立し得ない自分達は、つまりはいつも消滅と隣り合わせだ。





「何だかなぁ・・・・」


寂しいだとか不安だとか、それだけではなくて。





もう何も見えなくなった真っ黒の宇宙を、はずっと眺めていた。









明日の幸せだけを願う現在を幸せだと言えるのか、という話。