多くの生徒が帰途に着いた放課後。
橙色の夕日が差し込む廊下にはグランドから聞こえる部活生の声だけが響く。
昼間とは別物の静かな世界

・・・・にはとても似つかわしくないどたどたという足音、更には罵声までもが聞こえ、ターレスは足を止め振り返った。



「っ、ターレス!?」
「ナイスタイミング、捕まえて!!」


足音の主は、何の意外性もない、だったらしい。

に追われているらしいは進行方向にターレスがいることに戸惑い、その後ろから迫り来るはあからさまに喜んだ。


「観念しなさいっ」
「ちょ、冗談・・・・ってあんたもあんたで何でこっち来んのよ!」


前後を挟みうちにされ、自然とは壁際に後ずさる。


勝利を確信したは不気味な笑みを称え、ターレスはターレスで「よくわかんねぇけどとりあえず捕まえとくか」といった様子だ。


「ほらほら観念しなさいよ、おとなしくしてればすぐ済むからさぁ・・・・」


どこのAVですかと突っ込みたくなるような台詞と共に、は不気味な笑みを浮かべた。










「喫茶店?」


いつもの教室から少し離れた家庭科室。
目の前でメジャーに巻かれているを横目に、ターレスが疑問を口にした。


「何で喫茶店やるのに採寸がいるんだ?」
「制服の女の子が接客してもおもしろみないじゃない。」
「そりゃまぁ・・・・・その辺の親父ぐらいだろうな、喜ぶのは。」


少なくとも学園の文化祭では大した出し物とは言えないだろう。


「でしょ?だからこうして私たちは頑張ってんのさ。」
「別におもしろみなくてもいいから離してよ!」


頭のてっぺんから爪先までしっかりとサイズを計られ、いい加減立っていることにも疲れたが声を上げた。


さぁ、自分のクラスの出し物なんだからもうちょっと協力的になってくれても・・・・」
「じゃぁ何で私しか採寸しないのよ。」
「そ、それは、やっぱあんたが目玉だし・・・・」


素早いの突っ込みにたじろぐを見て、何と無くターレスは状況を理解した。

(要するに、目玉って名のイケニエか。)

勿論、理解したからといって助けに入るようなターレスでは、ない。


「さ、お疲れ!あとはうちらがやるから帰って良いよ。」
「・・・・・ねぇ、私何着せられんの?」

採寸を終えたはメジャーをしまいながら、華麗にの質問を無視。


(・・・・・ちっ、無駄か。)

長年の付き合いから悟ったはおとなしく諦め、さっさと帰ることにした。












「・・・・・・・おい。」
「・・・・・・・。」
ちゃん?様?」


現在の:完全無視モード突入


「なぁ、さっきから何怒ってんだよ。」


すたすたと前を歩いていくの三歩後ろを歩きながら、ターレスは皆目検討がつかないといった風に尋ねた。


「べっつに、ただあんた平気で私のことどっか売り飛ばしそうだなーと思ってさ!!」
「はぁ?」


完全なる沈黙から約10分、ようやく放たれた言葉はあまりにも突拍子もない言葉で。
感情をそのままに、ターレスは素っ頓狂な声を上げた。



「ヤダって言ったのに・・・・」
「あー・・・いや、だってよ、あれはちゃんだったから・・・・」
「甘い!!!!」
「あ?」
はね、あんなふわふわの可愛らしい見た目してるけどね、中身超怖いんだから!その辺の密猟者とかや○ざとか人身売買組織よりずっと怖いんだから・・・!!!」


はご丁寧にびしぃ、っと指までさして、の恐ろしさを熱弁してみせた。


「アタシ明日から学校行けない・・・・」
「いや、そりゃ行けないんじゃなくて行きたくないの間違いだろ。」
「うるさいわね、」


ぺしっとターレスの頭をはたいて、はずんずんと歩く。
ずんずん歩いて―――曲がり角で停止。


「(お?)」
「ね、どっち?」


首だけを後ろに向けて、右か左かの決断をターレスに委ねる。
意味するところは、つまり。


「掃除すっから俺ん家。手伝え。」
「ご飯奢ってネ。」


夕日に照らされながら彼氏と共に彼氏の家へ向かうは、本当に一人の「恋する女子高生」で(多少言動行動に問題はあるが)
まさかの企みによってとんでもない道を歩むことになんて考えは、勿論頭をかすりもしなかったのである。







***





「ターレス、ちょっと来て!」


喧騒の中の昼休み、さて屋上で昼寝でもしてそのまま五限はサボってやろうと考えていたターレスの下に一人の来訪者がやって来た。


ちゃん?」
「あのね、見て欲しいものがあって、ついでにアドバイスもして欲しいんだけど・・・」


来てくれるよね、来てくれなきゃにあることないこと吹き込むよ?

可愛い顔に少しも似合わない真っ黒のオーラを纏いながらにっこり笑ったに、さすがのターレスも従わざるを得ず。


「・・・・どこ行きゃいいんだよ?」
「家庭科室★」


バレたらまたに煩く言われそうだと思いながら、素直に教室を出て行った。







「ちょっと待っててねー」


家庭科室の入り口にターレスを置き去りにしたまま、は奥の準備室へと入って行く。

出てきたと同時に手にしていたものを見て、さすがのターレスも固まった。


「いや、おま、それ・・・・」
「徹夜で作ったんだよ徹夜で!もう私天才!!」


黒と白のそれは、広げてみなくてもすぐに何か理解できて。
はい、と手渡されたもののどうすればいいのかわからず、ターレスは眉間に皺を寄せを見つめた。


ちゃん、一応聞いとく。・・・・これ、何?」
「メイド服に決まってんじゃん。」


あぁそう、即答ですか。


何となく額を押さえたい衝動に駆られたが、仮にもカノジョの友人だ。あまり露骨な表現はよろしくないだろうと思いとどまる。


「ね、いいから広げてみてよ。チョー可愛いから。」


ターレスとて、何もメイド服に抵抗があるわけではない。寧ろ大歓迎だ。
ただそれを作成して自分に手渡してきた人物が、多少、予想外だったので驚いてしまっただけで。


ということで、ターレスは手元の綺麗に畳まれた黒と白の布の進化系を開いてみた。


「・・・・・・・・・・凄ぇ。」


『萌え』とか『クる』とか以前に、その一言に尽きた。

黒と白のバランスだとか
レースのつき具合だとか
恐らくは、スカートの長さなんかも『カノジョ』が履けば最高に良い長さになるのだろう。


ちゃん・・・・あんたの手、神の手?」
「でっしょー?しかも一晩ってんだから凄いよね。」


その一言にターレスは素直に頷いた。


「あ、でもね、違うの。ターレス呼んだのはそうじゃなくて・・・ちょっと、暫く手伝って欲しいんだよね。」
「は?・・・いや、俺針と糸はさすがに・・・・」
「違う違う!何つーか・・・・男のツボを!伝授して欲しいのよ、私に!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


さらにから詳しく説明を聞き、初めはどうしたものかと思っていたターレスも徐々に乗り気になってしまい、これから文化祭当日までの一週間、の計画に協力することを決断した。



勿論、生贄となるはそのことを全く一つもダニの大きさほども、知らない。






***




―――最初は、特に不審に思わなかった。


「ねぇ、ご飯奢ってくれる約束は?」
「だから昼飯、」
「駄目、晩御飯。お昼に食べられるものって何か安くて済むイメージあるもん。」


思えば、これが最初の拒否だった。

『あー・・・わり、今日の晩は無理だわ。』
『あれ、じゃぁ家も駄目?』
『おー、俺今日ダチんとこ行く約束。』



最初は、何一つ疑わなかった。
こういうことは今までもあったし、自身も同じような台詞をターレスに言った過去があったからだ。


「・・・・でもね!?」


さすがに、四日連続で断られるっておかしくない!?


ばんっ、と机を叩いたにビーデルはびくっと肩を震わせた。


「で、でもほら、文化祭前だから準備が忙しいとか・・・」
「アイツがそんな真面目に手伝うと思う?」
「・・・・・・それはないわね。」


このままだらだらと私の晩御飯は無かったことになる気がする・・・!!

ビーデルは本気で頭を抱えるを見て思わず苦笑した。

四日間私生活で会わないだけならまだわかる。
しかし曰く「学校でも全く会わない」らしいのだ。


(・・・・珍しいなぁ。)


ビーデルの目から見ても、ターレスはに「ベタ惚れ」状態で。
それを抜きにしても、彼氏彼女が同じ学校にいながら四日間一度も会わないというのもなかなか無い状況なのではないか。


「まぁ・・・・とりあえず、文化祭が終わるまで待つしかないんじゃない?」
「畜生、誓約書書かせとけばよかった・・・・!!」


心配するべきは他にもあるのでは?
と思ったが、わざわざに心労をかけることもないので、ビーデルは笑いながら紙パックのオレンジジュース(果汁100%)を啜った。







***




(・・・・・アレ?)


目の前に、見慣れた二人がいる。


彼氏と親友。


そこまでは良い。何も問題はない。

しかし、確かあの二人は今日自分の誘いを断ったのではなかったか?


帰宅途中、は思わず足を止めた。


(ちょっと待って、何かすっごいヤな感じするんだけど・・・・)



枝分かれした道の真ん中で立ち止まる。

右を向けば彼の家が道沿いに見えて
左に曲がれば自分の家。



首を右に向けてからたっぷり三十秒。



まるで心臓発作でも起こすんじゃないかと思うぐらい、動機が高鳴った。









もう少し続きます。