|
「晋助くん、晋助くん!」 (・・・どうしよう。) 珍しく、晋助くんが朝ごはんの時間になっても起きてこなかった。松陽先生が同じ部屋で眠っていた筈の銀ちゃんに晋助くんはどうしたのかと聞くと、銀ちゃんは「まだ寝てる」って。 私が、起こしてあげないの?と聞いたら、「だってアイツの寝起き怖ぇーんだもん」って、拗ねたみたいに言った。 松陽先生がやれやれって苦笑いしてたら、銀ちゃんが「が起こしてきてやれよ」って。やだよ、怖いんでしょ。断ったら、大丈夫だよあいつはには怖くないから、ってよくわからないことを言われた。 「まぁ別にいいんだけどね、あいつが起きてこなくても。寧ろあいつの朝飯も食えてラッキー、みたいな?」 「え、ちょ、駄目だよ銀ちゃん、それ晋助くんのごはん!」 晋助くんの膳にお箸を伸ばした銀ちゃんを慌てて制した。自分だって、ご飯取られたら物凄く怒るくせに。咎めるような声で「銀時。」と松陽先生に名前を呼ばれて、銀ちゃんは大人しくお箸を戻した。 「珍しいですね、晋助が起きてこないなんて。、様子を見てきてくれませんか?」 「えぇ!?」 いくら先生の頼みでも、怖いってわかってるのに起こしに行くのはちょっと嫌だ。そもそも怖いってどういう風に怖いんだろう。それがわからないから余計に怖い。 「晋助は寝起きが怖いのではなくて、銀時に起こされるのが嫌なんですよ。」 「えっ、何でだよ!」 冗談めかした先生の台詞に銀ちゃんが抗議の声を上げた。何となくわかるのかもしれない。私が銀ちゃんに起こされたくないとかじゃなくて、普段の晋助くんと銀ちゃんを見てたら、何か・・・うん。そんな感じ。 「・・・・じゃぁ、行って来ます。」 どう頑張っても私が行かなきゃいけないような雰囲気に、遂に重い腰を上げた(別に晋助くんが嫌いとかじゃないよ)(ただ怖いのがちょっと嫌だなぁっていうだけで!) 「晋助くん・・・・うー、起きてってば・・・・」 大丈夫、怖くない、怖くない。意気込んで襖を開けて起こしに来たのはいいものの、晋助くんはさっきから全然起きる気配がない。最初は遠慮がちに、今は力を込めて身体を揺すってみてるけど、時々鬱陶しそうに寝返りを打つだけで全然駄目。 やっぱり先生呼んで来た方がいいのかな、もしかしたら具合が悪いのかも・・・。小さく溜息を零して視線を上げると、箪笥の上に一つの写真立てがあった。 (見てもいい・・・よね?) ひっくり返されるわけでもなく堂々と置いてあるんだから、きっと見られて困るようなものではない筈。箪笥の上には他には何も無く写真立てが妙な存在感を放っているのに加えて、晋助くんが写真を飾ってるっていうのが少し意外で、私の好奇心を駆り立てた。 布団の中にいる晋助くんを踏まないように薄暗い部屋で二、三歩足を進めて、写真立てを手に取った。 (これって・・・晋助くん、だよね?) 私が知ってる晋助くんよりずっと小さい男の子。でも目元を見れば、それが晋助くんなんだってすぐにわかった。両隣には男の人と女の人。これは、もしかして、多分。 「・・・・オイ。」 「ひゃぁっ」 急に冷たい手で足首を掴まれて引っ張られた。力のなすがままに足を取られて、私は尻餅をついた。 「いったぁ・・・・何するの!」 「それはこっちの台詞だ、おめーこそ何してんだよ・・・」 「だ、だってご飯の時間になってもおきてこないから・・・先生が、起こしてきてあげて、って。早くしないと銀ちゃんにごはん食べられちゃうよ?」 晋助くんの視線が私の持ってる写真立てに向けられた。慌ててごめんねと謝ると晋助くんはゆっくり私の手から写真立てを取って、ようやく布団から身体を出して写真を元の場所に戻した。 「あれ・・・お父さんとお母さん?」 「あァ・・・捨てるはずだったが、大事なモンだから持っとけって。しょーよー先生が。」 捨てるはずだった、その言葉が何故かとても重かった。私が此処に来た時には既に晋助くんは此処に住んでて、きっとその頃から晋助くんは何かを抱えたまま生きてるんだ。 そう思ったら、私は凄く申し訳なくなった。勝手に手にとって良かったものじゃなかったのかもしれない。 「・・・ごめん。」 「別に・・・今はもう、どーでもいい。」 晋助くんは振り返って、私の手を掴んだまま部屋を出た。 「し、晋助くん?」 「朝飯、どうせおめーもまだなんだろ。」 早く行かねぇと銀時に食われる、そう言ってずんずん廊下を歩いていく晋助くんの手と背中は私よりも大きくて、もしかしたらその分私よりも沢山のものを背負ってしまっているのかもしれないと思った。 その背負ったものを知りたい、背負ったものを通じて晋助くんのことを知りたい。だけどそれはきっと、簡単には満たされてくれない欲求。 (そうして私が今の彼の背負うものを知ることが出来る頃には、彼はまた今よりもっと大きくて重いものを背負ってる) (私たちが生きていくっていうのは、そういうことなんだ。) |