いつだって、というわけではないけれど。それなりの頻度で、そうだ。するりとすり抜ける、という言葉がぴったりなのだ、彼女は。
声をかけても、腕を伸ばしても、すぐには捕まえられない。彼女はあまたのことに興味を抱くから、その彼女の興味を自分に向けるのは大変だ。
名前を呼べば穏やかに微笑う。くせに、簡単には抱きしめられない。
彼女にとっての世界は広い。俺のそれなんかよりもずっと、だ。
俺も彼も彼女もソイツもアイツも空も木も風も月も機械さえも何もかも彼女にとっては同じだ。全てが世界を構成するもので、全てが自分を包むもの。
俺は彼女を簡単には抱きしめられない。なのに彼女は意図も簡単に俺を捕まえて、抱きしめる。
悔しい、というのとは少し違う。ただどうして彼女に出来ることが俺には出来ないのだろうと、少し不思議なだけだ。
「どうしたの!」
「・・・・重てぇ・・・・」
神殿から見上げる空は嫌いじゃなかった。空が好き、というよりは、何もない空を見上げる時間が好きなのだ。
但しその時間は、これもまぁそれなりの頻度で彼女に壊されてしまう。
仰向けに寝転がっていると、その上に彼女は乗ってきた。俺の胸板に手をついて顔を覗き込んでくる(可愛い)
「何見てるの?」
「今はお前しか見えねぇ。」
「・・・・・・・・・。」
呆れたように言うと、彼女はぱちぱちとまばたきをしてから「ごめん」と謝ってすんなり俺の上から退いて、俺の隣に同じように寝転がった。
「珍しく素直だな。」
「何それー、私はいつも素直だよ?」
嘘ではない、から釈然としない。いつも素直に多くのものに興味と視線を向ける。おかげでその後を追う俺は大変だ。
「わ、何っ?」
隣の彼女を引き寄せた。細くて華奢だが、頼りないというのとは違う。しっかり世界を吸収しているのを知っているから、そう思うだけだろうか?
「・・・・・ベジットはさぁ、いつも何考えてるの?」
「別に・・・何も。」
「嘘だぁ。私と話してても、結構上の空っていうか・・・そういうこと多いよ?」
「んなわけねーだろ、俺はおまえのことしか考えてねーよ。いつも。」
撫でている髪から世界の匂いがした。また山にでもおりていたんだろう、今は花が咲き誇る季節だ。
ふとその隙間から見えた耳が赤くなっているのに気が付いた。
「・・・・耳真っ赤だぜ?」
「ばっか、普通そんなこと言われたら照れるでしょ!」
照れ隠しに更にぎゅう、っと抱きついてきた。
「世界はさぁ、まぁ綺麗なところも汚いところもあるけど・・・とにかく広くてさ。広い分だけ、自分の存在が希薄に思えて、時々寂しくなるんだ。」
「はぁ?」
「ベジットの腕の中は、世界に比べたらずっと狭くて、でも世界のどこよりもあったかくて、私は自分のことをすごく感じられるからここが一番好きだよ。・・・多少ベジットが上の空でも!」
まさか気付いていないのだろうか、愚かな君は―――家族のように、友人のように、恋人のように。俺が、いつも君を見て、いつも君を思っているということに。
あるいは、愚かなのはもしかして。