それは大抵は変わった人間こそが口にする台詞だと思った。








いくら泣く子も黙る鬼兵隊とはいえ、食料なしでは生きていけない。かといって当然自給自足なんて生活もしてない。つまり、定期的に買出しが必要なわけで。
晋助また子ちゃん似蔵、この三人は絶対に行かせられない。余りにも目立ちすぎる、私でもわかるぐらいに。武市さんは、下手に幼女のいる場所へ行かせると後々面倒なことになりそうだから彼も無理(鬼兵隊に妙な罪名が追加されるのは勘弁して欲しい)

というわけで、買出しには未だ顔のわれていない私が出ることが多い。念のため笠を被り、いつものじんべえを脱ぎ代わりに着物を着て。
部下に行かせる事もあるけど、それはそれで色々と不安なのだ。ヘマをやって尾行でもされたら適わない。


何で長々とこんな説明をしたかって?勿論、今現在私が買出しに来てるから。










晴れた日だった。空はあんまり綺麗じゃなかった、江戸の空は余計なものが多すぎて大嫌い。
そして今日はまた一段と騒がしく感じた。元々静かな町じゃないことぐらいわかってるけど、それにしても。当社比1.3倍ぐらいの騒がしさ。


「真選組か・・・。」


どうやら攘夷志士を追っているらしい。一体何をやらかした攘夷志士なのか。
迷惑なのよね、他の攘夷派が下手に行動起こして、しかも失敗したりすると。攘夷派への警戒態勢がますます厳しくなってしまうから。
まぁ、鬼兵隊への警戒態勢は常にレベル5(要するに何時でも何処でも警戒を怠ってはいない)でしょうけど。

追われているらしい攘夷志士が、私の横を通り過ぎた。私は道脇に寄って、真選組のために道を開ける「善良な市民」を演じる。
人騒がせな志士の顔だけでも見てやろうと笠の下から視線を向けると、何と、まぁまぁ。









「お疲れ様。」

橋の下に寝転がり激しく胸を上下させている旧友に水を渡した。
どうやら彼は上手く真選組を撒いたらしい、もう辺りは随分と静かになっていた。


「やはり、お前だったか。」

「気付いてた?」

「すれ違った時にな。」


彼はゆっくりと身体を起こして、豪快に水を飲んだ。


「久しぶりね、桂ちゃん。相変わらず追われてるの?」

「全く、奴らもしつこい。そういうこそ、こんな所をうろついていて平気なのか。」

「あら、知らないの?指名手配されてるのは晋助だけで、私の顔は知られてないのよ。」


桂ちゃんは少し驚いたような表情をしてから、すぐに納得したような声を出した。そういえばそんなことを言っていたな、アイツが、と。


「晋助と会ったの?」

「あぁ・・・少し前の話だがな。」

「ふぅん・・・」


初耳だった。彼の行動を全て把握する必要なんて微塵もないにしろ、桂ちゃんに会ったなら、一言あっても良さそうなのに。


「相変わらず、一緒にいるのか。」

「うん、そりゃぁ。一緒にいる理由はあっても今更袂を分かつ理由はないもの。」

「・・・そうか。」


それきり、桂ちゃんは黙り込んだ。
そういえば家を出る頃には布団の中だった晋助はいい加減起きただろうかなんて思っていたら、暫くして桂ちゃんが口を開いた。




「・・・変わってしまったとは、思わぬのか。」



よく、わからなかった。変わったって、何が?世界が?私が?貴方が?晋助が?



「高杉は―――随分と変わってしまった。」


今度は疑問じゃなく、断定だった。
どちらにしても、私は頷こうと思わなかった。


「・・・そうかな。」

「そうは、思わぬか。」

「うん、思わぬよ。」

茶化した口調で答えると、桂ちゃんは眉間に皺を寄せた。怒らせた、かしら。


「本当に・・・思わないよ。晋助は、晋助よ。」

「アイツは・・・過去のアイツは、獣などではなかったと。俺はそう思っているのだ。」


わかるような気がして、でもやっぱりわからなかった。

そんなのは表面的なもの、でしょう。目つきだとか行動だとか。行動を起こす要因、核の部分は、私には変わったようには思えない。


「今のアイツを見た時、が未だ行動を共にしているというのが些か信じられなかった。」

「ふふ、何それ。今の私と晋助じゃ不釣合いってこと?」

「いや・・・そういうつもりでは、」

「・・・ねぇ、桂ちゃん。獣と人間の違いって、何かな。」


答えが知りたくて口にしたわけじゃない。半分は皮肉のつもりだった。


「私は、晋助が『変わってしまった』なんて思わないよ。そりゃ、見た目は随分変わったけど・・・でも晋助は、昔から獣でもあり人間でもあるよ。」

それに私だって変わったでしょう、いい女になったと思わない?


桂ちゃんは苦笑いをして、そうだな、と零した(社交辞令だったらちょっと悲しい)



「桂ちゃん、私行くね。そろそろ晋助も起きてるだろうから。」

「今でも朝は弱いのか、奴は。」

「うん、用がなかったらお昼まで寝てるわ。」


立ち上がって着物の裾の埃を払い、荷物を持ち上げた。
じゃぁね、と立ち去る間際に桂ちゃんがぼそりと、相変わらず寝起きは悪いのだな、と呟いたのが聞こえた。