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全く、新年度ってのはやってられねぇ。そうでなくてもこの時期は忙しさに拍車がかかるってのに、何と今年は担任として新入生を迎えるハメになった。 春休み中からやたらと忙しく休みにも関わらず毎日のように職員室に居座ってはいたものの、入学式が終わったからといってその忙しさから開放されるわけでもない。 入学式からはや一週間、果たして俺が定時通りに仕事を終わらせ職員室を後に出来たことが一度でもあっただろうか?否。 というわけで、勿論今日も残業だ。時刻は午後八時。つい三十分ほど前までは他の教師も何人か残っていたが、今では残るは俺一人。 液晶画面の無駄な明るさにいい加減目も疲れてきた。気付けば大き目の灰皿ももう満杯だ。 (あー、やってらんねェ。) 餓鬼共は嫌いじゃねぇが、どうにもこの忙しさに追われていると仕事自体が嫌になってくる。 新しい煙草に火をつけ思い切り背もたれに体重をかけて暫しの一服を満喫していると、コンコン、と職員室のドアが鳴った。 (誰だこんな時間に・・・) 教師の誰かが残っていたのだろうかと思ったが、それならノックなんてせずに入ってくる筈だ。こんな時間に生徒がいる筈もない。 まさか保護者か何かじゃねぇだろうなと思いながらドアに目をやると、失礼しまーす、と控えめな声と共にドアを引き入ってきたのはだった。 「あ、せんせ、良かったまだ残ってた!」 「おま、良かったじゃねぇよ何時だと思ってんだ!」 は俺の顔を見るなり安堵した表情を浮かべたが、こっちはそれどころじゃねぇ。こんな時間まで生徒を残してたとなれば問題だ(最も、アイツの両親は出張でいないらしいから実際のところは大したこともないんだが) 驚きから声を荒げると、は安堵から一転、しゅんとした表情になった。 「ご、ごめんなさい・・・」 「あのなぁ、下校時刻何時だと思ってんだ。もう三時間過ぎてんぞ。」 咎めるような言葉をかけると、うぅ、と小さく呻いた。とはいえ、格段問題児だというわけでもないがこんな時間まで残っていたのには何かしら理由があるんだろう。 深い溜息をついてから隣の机の教師の椅子を引き出しそこに座るように促すと、嬉しそうに小走りで駆け寄ってきた(正直かなり可愛いと思った) 「せんせ、まだお仕事?」 「あぁ、ったくこの時期は忙しくて適わねぇ・・・それよりお前、何でこんな時間まで残ってやがった。」 「え、えーっと・・・・教室で寝てて、起きたらこんな時間になってた。」 「はぁ?このくそ寒日にくそ寒い教室でか?」 春とはいえ、この辺りはまだまだ寒い。 各教室にストーブは出してあるが、使えるのは授業中だけで放課後になればスイッチは落とされる。そんな所でこんな時間まで寝続けるなんざありえねぇだろう、いくらこいつでも。 は痛いところを突かれたとでもいうように俯いている。 「場合によっちゃ説教だ。理由を言え、理由を。」 「え、や、やだ無理!」 「あぁ?」 いい加減苛ついて軽く睨むと、は泣きそうな顔をして「だって言ったら怒る、っていうか嫌われる・・・」と呟いた。 いやちょっと待て、どんな理由で残ってたっつーんだマジで。まさか何かややこしいことにでも手ぇ出したんじゃねぇだろうな・・・勘弁してくれ全く。 「いいから、言え。残ってやべぇことでもしてたんじゃねーだろうな。」 「そんなことしてないよ!」 「じゃぁ何だ。理由によっちゃ許してやる。」 「あの・・・せんせーのこと、待ってた。」 弱気な声で返って来た答えに思わず咥えていた煙草を落としそうになった。待ってただと?俺を?こんな時間まで? 「待ってた、って・・・用があるならさっさと此処来りゃ良かっただろうが。」 「いや、用はないから残って待ってたんだよ・・・お仕事の邪魔しちゃいけないし・・・・」 「・・・・寂しかったのか。」 「え、別にそんなこと!」 は項垂れていた頭をばっと上げて否定したが、その表情にはどっからどう見ても「寂しかった」と書いてある。どこか泣きそうにも見えた。 「・・・・・だって、せんせーの家行ってもいないこと多いし、吃驚するぐらい会えないんだもん・・・・」 思えばここ最近は本当に残業続きで、家に帰るのは日付を回った頃か、酷い時にはそのまま此処の保健室のベッドで一夜を明かすなんてことも何度かあった。 更に、去年はのクラスを担当していたから毎日のように顔を合わせていたが、今年は違う。 会えなかったのも当然といえば当然だ。 「ほんとはね、今日もちゃんと帰るつもりだったんだけど、が彼氏と帰ってるの見たらなんか・・・」 話しながらまたも頭が徐々に下がっていく。机に頬杖をついて横目でを見ると、でもやっぱりお仕事邪魔しちゃったよね、ごめんなさい、と泣きそうな顔で言われて、何かもう色々どうでも良くなった。可愛すぎる、本当に。 「・・・お前、もう少し待ってられるか。」 頭にぽんと手を乗せてそう言うと、はまたもぱっと顔を上げた(二回目だな、忙しい奴め) いいの、邪魔じゃないの?と聞かれてどうせもう少しで一段落する、と答えると、ぱぁ、と表情を明るくして横腹から抱きついてきた。 「どうせこんな時間に女子生徒一人で帰すわけにもいかねぇだろ。」 「え、大丈夫だよ私強いから!伊達に去年一年間せんせーにお世話になったわけじゃないよ!」 「そうか・・・なら一人で帰るか?」 「!やだ!」 素直な反応に堪えきれずに喉で笑うと、が更に力を込めてぎゅううと抱きついてきた。 「許可出したのせんせーなんだからね、せんせーが終わるまで私もう帰らないからね!」 「あーわかったわかった。そんなに寂しかったかよ。」 左手で頭を撫でてやりながら右手でノートパソコンの電源を切り二つに畳んだ。適当に周りのものを片付けてからを引き剥がし立ち上がると、慌てたようにも立ち上がった。 「せんせ、もう一個我侭言ってもいい?」 車の助手席でシートベルトを締めながら言った。 「あー?程ほどのモンにしとけよ。」 「あのね、帰りね、私の家に送ってくれなくてもいいから・・・・せんせーの家、行きたい。」 何とも可愛いお願いに思わずを凝視すると、うぅやっぱ駄目?駄目だよねせんせー疲れてるもんね、とこれまたしょんぼりした顔で言われたもんだから、たまらずその唇を塞いでやった(俺がまだシートベルト締めてなくて良かった) 「・・・・せ、せんせ、」 「あー、もういい、いいから。お前暫く黙ってろ。」 「何で!」 「それ以上喋んな、喋ったら家までもたねぇ。」 別に俺は車ん中でも構わねぇが、学校の駐車場で教師と生徒が・・・なんてのはさすがに笑えねぇ。 当のは何のことかわからないらしく、うん?なんて曖昧な返事を零してやがる。 「お前、あれだな・・・・暫く会わねーうちにえらい可愛くなったのな。」 「え、え、えぇ!?」 やたらと驚いて顔を赤くするに笑いながら、近い内に合鍵を渡してやろうと考えた。 卒業も誕生日もまだまだ先だが、が喜ぶならそれで十分な気がした。 教師バダに激しく萌えます。きゅん。 |