は廊下を歩いていた。


いつもは慌ただしく走り抜ける廊下を、何も考えずただゆったりのんびり歩くこの感覚が好きだった。
いつもなら駆け上がる階段を一段一段のんびりと登るこの時間が好きだった。




扉を開けるといつもの日差しに出迎えられた。眩しくて少し目を細めても、にはそこに彼がいることがわかる。

涼し気な水色の空気の中で左腕に頭を乗せて横向きに寝そべる彼の横にそっと腰を下ろして空を見上げる。吐息ほどの微風はそれでも少し冷たい。


(もう夏も終わりかぁ・・・・)


風に当てられた頬の皮が少し固く感じる。跡に気付かれては面倒だと手の甲で頬を擦ろうと手を持ち上げたとき、ゆっくりと手首を掴まれた。


「・・・・・起きてた?」
「今起きた。」


は慌てるでもなく、あぁもうバレるなと、ぼんやり考えた。


「泣いた?」
「・・・・ちょっとだけ。」


僅かに眉間に皺を寄せて、ターレスは体を起こした。

掴んでいた手首を解放した代わりにの頬を両手で包むと、の肩がぴくりと動いた。


「何で?」
「泣いたら忘れた。」
「じゃぁ次は俺が泣かす。」
「死ねばいいよ。」


口のよろしくない恋人を腕に閉じ込めてターレスは空を見上げる。

パステルカラーの水色に白色がくっついて、とても綺麗だった。


「お前も大変だな。」
「これでも苦労してんのよ、一応。」


ターレスがを抱き締めたのはを思ってのことではなく、ただそうしたいと思ったから。

それはもよくわかっていたし、それで二人に正の感情が産まれるならそれでいいじゃないかと思っていた。


「次出る?」
「うん。」
「予鈴鳴ってんだけど。」
「戻る。」


何しに来たんだよの台詞を飲み込んで腕をほどくと、あんたはどうするんだと言いたげな(というよりはっきり告げている)瞳が見上げていた。




「・・・・・俺も行く。」




立ち上がったターレスの後ろをも歩く。

いつもはとんとんと一段飛ばしに降りる階段も、ターレスがのんびり歩いている時だけは、は一段ずつ歩く。

それを知っていてターレスはゆっくり階段を降りる。後ろに続くの頬にはもう筋の跡はない。





慌ただしい一段飛ばしの日常も好きだけれど、たまには半歩ずつの時間もいいじゃない。









短いですか。
短すぎ、ですね・・・・すみません。