|
生きてて良かった 生き残ってごめんなさい 幹部は別として、大部分の鬼兵隊隊員は紅桜の件以来どことなくや高杉に何かを遠慮しているようだった。攘夷戦争時代の盟友の存在が大きく露見したことが原因かもしれない。恐れや敬遠というより、どう言葉をかけて良いかわからない、といった雰囲気だ。 それは特に攘夷戦争に参加した者からよく感じられた。別離した仲間のこと、過去に捨て置いた仲間のこと。それぞれに思うところがあったのだろう。 若く無知であるというのはそれだけで愚かで素晴らしいことだとは思った。決して自分や高杉を老いた存在と見なしているわけではないが、若さ故に多くを感じ取り吸収したり若さ故に失言や失敗を繰り返す、少なくとも自分たちはそういった行動を最多に起こす時期はもう過ぎているだろう。 未だに感性は働くし失敗も侵すが、それが若さ故であるかは微妙なところだ。 「俺、幼くて攘夷戦争って行けなかったから・・・だから、あそこで戦った上で生き残って今も攘夷活動してる人って、凄ぇ尊敬するっていうか、かっこよく思えるっていうか。」 ある若い部下の一人が放った言葉だが、あまりにも他意のない表情と口調で話すものだからは怒りを感じることもなかった。 しかし同時に、無理矢理胃に流し込んだ苦味が口内に戻ってくる感覚にも悩まされた。 「別に、かっこいいことなんかじゃないわよ・・・大量殺戮が正当化されるようなものよ、かっこいいわけがない。」 それだけ返してその話題は終わりにさせたが、戦争が身に染み着いている者と戦争を知識としてしか知らない者ではこうも違いがあるのかと内心では多少驚愕しさえした。更に言えば、その台詞を聞いたのが高杉ではなく自分で良かった、とも。 「まぁでも、結局私が貴方に話しちゃってるから同じことなんだけど。」 同じ布団の中、隣でうつ伏せのまま頬杖をつきながら読書中の高杉に言えば、高杉は本から視線を外し高杉の方を向き横寝しているを見やった。 「不思議に怖いわよね・・・無知が罪だなんて思わないけれど、少し、怖いわ。」 「・・・・さァ、どうだかな。」 恐らくその部下とやらは戦争そのものをかっこいい等と陳腐な言葉で讃えたかったわけではなく、単純に過去を背負いながら生きる自分よりほんの少し大人である存在に何らかの憧憬を抱いたのだろう。しかしどちらにせよ理解出来ないことではあると高杉は口には出さずに考えた。 「今生きていること、必死で生き残ってしまったことに抱く罪悪感なんて、」 知らずに済むのなら、その方が。そう続くはずの言葉は途中で途切れた。続きを紡ぐことすら、には罪のように思えたのだ。 途切れた言葉を催促することもなく高杉は本を閉じ、自らもの方を向きいよいよ本格的に横になった。 「でも私、晋助が生き延びてくれたことは、今でも感謝してるの。不思議よね。」 高杉は腕を延ばしてを抱き寄せた。それは俺も同じことだとは口にしなかった。そんなことは重々承知であろうし、今更そんな言葉が罪悪感を薄めることなどありはしないのだと自分の心が何よりも知っていたから。 「そのうち、ソイツにもわかるだろうよ。」 細い割に意外と筋肉質な自分を抱きしめる躯とその低く艶のある声の存在が、には異様に嬉しく感じられた。 「晋助、」 本当に罪なのは、それだけの痛みを知っても尚修羅の道を歩もうとすることこそなのだとわかっていた。されども不思議と立ち止まりたい等とは思わない。そうして高杉を失う痛みから逃れたことを喜びながら誰かにその痛みを与える道を歩むのだ。 「何だ・・・泣きてェのか。」 「・・・そうね、晋助が此処にいるってことに関しては、泣きたいほど嬉しいわ。」 しかし覚悟はもう決めてある。揺れ動く時期はとうに過ぎた。何をしても罪が償われることはないのだから、後は全てを背負うのみだ。 |