「ちっ、口ほどにもねぇ・・・・」


自らが作り出した荒野を見渡しながら、ターレスは呟いた。

素より、自分達のような下級戦士が制圧する惑星に大した戦闘力の持ち主がいないのは当然ともいえるのだが、それにしても。

「・・・・このままじゃそのうち腕が鈍り腐っちまうぜ。」
「おいターレス!!お前も飲むか!?」
「あ?あぁ、今行・・・・」

勝利の祝杯といったところだろうか、早速酒の瓶を開けようとしている仲間に自分も混ざろうとしたとき、彼の左目に奇妙な数字が写った。

「・・・・いや、今はいい!」
「今は、って・・・・ぁ、おい、ターレス!!」

ターレスは仲間の声に振り向くこともせず、その数字の持ち主に出会うべく飛び立った。











「何だ?此処は・・・・」

左目のスカウターは、確かにこの辺りに何者かがいるということを伝えている。
しかし見たところ此処は戦艦を収容する、いわば大きな倉庫のような所であり、戦艦が飛び立ってしまった後らしい其処は薄暗い。

「戦闘力はなかなか高いようだが、一体どこに・・・・・」

スカウターの数字に振り向いたターレスの瞳に写ったソレは、まるで奇跡とも思えるほどに、美しく。













「・・・・・なかなかやるじゃねぇか。」

頬についた返り血を手の甲で拭いながら、動かなくなったソレに言葉を投げる。

「見た目とは大違いだな・・・・」
―――面白い。

これまで幾人もの強い男や美しい女を相手にしてきたが、これほどまでに興味を引かれたのは初めてだった。
くっと笑ってから、ターレスは全身に傷を追っている女を抱き上げた。


「・・・・は、・・・・・せ、」
「何だ、まだ意識があったのか。残念ながら離してはやれねぇな。」

まるで魔法にでもかけられたかのように体が動かなくなっていくのを感じながら、それでも必死の抵抗としてターレスの腕に爪を食い込ませる。

「・・・・お前、名前は?」

彼にとってはそれすら愉快な事柄であるようで、全く動じることもなく幾分か上機嫌に問うた。


「・・・・、」
「あ?」
「・・・・・・・・、・・・・・・・・・・」
、ね。」

辛うじて開かれているその美しい生命体の―――の瞳には、はっきりと憎しみの色が見て取れる。


全くこれは面白くなりそうだと笑うターレスの瞳は、闇よりも深い色をしていた。





***






「おぉターレス、もう帰ってきたのか。」
「あんな星一つ制圧するのにそう時間がかかるかよ。」

ポッドから降りるなり声をかけてきたドクターに、ふっと鼻で笑った。

「それもそうじゃな。・・・・して、その娘さんは?かなりの重傷のようだが・・・・」
「イイ女だろ?」

ケロリと言ってのけたターレスに、ドクターは最早十八番ともなってしまった呆れ顔を披露した。

「・・・・・またお前は・・・・・ほどほどにしとかんとそのうち刺されても知らんぞ・・・・・」
「んな下手な遊び方してねーよ。・・・・っと、じいさん、マシンの準備はいらねぇ。」
「な、何?」

当然抱えている女を治療するのだと思っていた白髪混じりの医者は、その制止の言葉に目を開いた。

「しかしその傷では、」
「別に死にやしねぇよ。」
「ぁ、待ちなさ・・・・」

そのままターレスは自動扉の向こうに消えてしまい、医者の言葉は最後まで発されることはなかった。





***




「・・・・ぁ・・・・・?」

背に感じるひやりとした感覚に、少しだけ意識が現世へと戻ってきた。
ゆっくりと視線を動かすと、はっきりとは見えないにしろ、此処が薄暗い牢獄のようであることがわかった。


「・・・・タ、・・・・・ス・・・・」


未だはっきりとしない意識と気を抜けば全てを凌駕してしまいそうな程の痛みの中で、はふと頭に浮かんだ言葉を口にした。

(ターレス・・・・そうだ、あの男・・・・)

相変わらず上手く稼働することのない思考を置いて、ようやく記憶だけが繋がった。
初老の男は自分を抱えている男を、確かにターレス、と呼んでいた。

全身が酷く痛む中ゆっくりと体を起こすと、目の前の扉が開き光が差し込んできた。



「・・・・何だ、もう起きたのか。」


霞む視界で以て必死に焦点を合わせると、それがそのターレスそのものであるとわかった。

「普通ならあと二日は寝ていそうな傷だが・・・・さすがだな。」

は、しゃがみ込み自分の頬にそっと触れたターレスの手を振り払った。

「さわ・・・・な、で、」

ただそれだけのことで、上手く酸素を吸い込めなくなるほどに呼吸器官が乱れる。

「折角薬を持ってきてやったってのに・・・・それはねぇんじゃねーの?」
「ぃ、らない・・・・・」


顔を背け、口許に当てられたカプセルから逃れる。


「いらなくても飲め。生憎瀕死の女を抱くような趣味は俺にはないんでね。」

辺りは薄暗く、その表情は見えない。

ターレスはの顎を掴みそのまま―――


「ん・・・・ぅ・・・・」

はターレスを押し退けようと必死に抵抗するが、傷付いた今の体では効果は皆無。
せめて薬だけは拒絶しようと堅くなに閉ざされた唇も、ターレスの舌によってこじ開けられてしまう。

同時に、口の中へ放り込まれた小さな異物
そのままソレは喉を通りの体内へと溶けていく。


「・・・・って、」

ガリッという猟奇的な音が聞こえたかと思うと、ターレスはから体を離した。

「て、めぇ・・・・」

軽く覗いた舌先には赤い液体がにじんでいる。

「あのなぁ・・・お前、自分の立場わかってんの?」

一体どこにそんな力があるのか、起きているのもやっとな筈なのに相変わらず睨みあげてくるを、ターレスは冷たく見下ろした。

そのまま腕を伸ばし、最も傷の深いの肩をぐっと掴む。

「うああぁぁあ"あ"・・・・っ!!!」
「綺麗な女の悲鳴ほどクるもんはない、ってな。」


ちゃんとイイ子でおとなしくしてろよ、と、ターレスはそのまま重い扉の外へと消えていった。


「ぅ・・・・」


捕まれた肩を押さえ蹲りながらもその扉を睨みつけるの瞳には涙が浮かんでいた。




***





―――全く、素晴らしいと讃えるしかない程の効き目であった。


次に目覚めたとき、思考能力すら奪っていきかねなかった痛みは唯の痛みと変わっていて
一日もすれば痛みは完全に消えた。
三日経った今では傷跡も薄く消えかかっている。


(・・・・何なのよ、一体。)

あの男は何故自分を生かしているのか。
薬を飲ました後も数度顔を出しては食事らしき固形物を置いて行った。
勿論、ご丁寧に水まで用意して。

瀕死の自分の息の根を止めるのは簡単なことであっただろうに、それどころか助けるようなことばかりしている。

この部屋からはまだ一度も出されたことはないが(最もつい先日まで立つことがやっとであった体では出されたところで何の意味も成さなかっただろうが)一体、何を考えているのか。




「おい、。」

重い音と聞き慣れてしまった男の声に、ははっと顔を上げた。

「何の用。」
「はっ、それだけ悪態がつけるんならもう大丈夫だろ。・・・来い。」

突然の言葉に眉を顰める。

来い、等と

一体、どこに。


―――が、いつまでもこんな所に閉じ込められていても仕方がない。
は意を決して足を進めた。






「・・・・っ、」

数日ぶりの光は闇に慣れていた眼球に刺激が強く、扉を出るとは目を細めた。
徐々に慣れた瞳で辺りを一通り見回すと、どうやら此処はターレスの部屋であるらしいとわかった。

「これから此処がお前の生活する場所だ。」
「!?な、何言っ・・・・」

理解を超越した言葉に振り向きターレスを睨みあげようとしたが、その瞳は見開かれ言葉もまた続くことがなかった。


(何、コレ…)



―――何という瞳だ。

深く深い、底の見えない闇のように黒く光る、引きずり込まれてしまいそうな程の瞳。

辺りは確かな光で包まれているというのに、まるで自分だけが闇の中に浮遊している感覚に陥った。





『ターレス、聞こえるか!?次の任務が決まった、直ちに集合だ!』

を現実へと引き戻したのは、彼の左目についている機器から聞こえてきた機械的な声だった。

「ちっ、めんどくせぇ・・・・いいか、必要なモンは大体目につくところに置いてあるから勝手に使っとけ。」
「ちょ、ちょっと待っ、」
「・・・・・あぁ、それから、逃げようなんて無駄な考えはとっとと捨てるんだな。」
お前は、俺の女だからな。



まるで呪いにも似た言葉を放ってから、ターレスは部屋を出て行った。


「何なのよ、それ・・・・」



見つめる先の扉は、閉ざされたまま。










鳳凰白夜様から頂いたリクエスト小説。
すみません、予想外に長くなってしまったため2話目に続きます・・・!!