皆様、こんにちは。
初めまして、といいます。

年齢はおそらく19歳、性別は雌。
職業は・・・・世間でいう、メイドさんということになりましょうか。
あ、だからといっていつもあんな可愛らしいひらひらふりふりのお洋服を着ているのかといいますと、そういうわけではありません。

動きやすい服装

ご主人様の職業柄私も過度の運動を強要させられることがございますので、これが一番、です。

今日はそんな私とご主人様の生活の中で、少し印象に残っていることをお話します。










「・・・・あ・・・・・」


まぁ、何ということでしょう。

・・・・卵が、ありません。


「昨日買っとけば良かったんだわ・・・」


昨日は、ターレス様(あ、上記の『ご主人様』とはこの方のことです)と共にお買い物へ参りました。
本来ならお疲れのターレス様を連れ出すなど言語道断なのですが、ターレス様に

『俺が行きたいっつってんだからお前に止める権利はねぇの』

と言われてしまってはどうしようもありません。
お肉やお野菜、ついでに牛乳なんかも購入したわけですが、何とターレス様はお荷物を一つ(それも重い方を!)持って下さいました。
もう一つの軽い方のお荷物も持とうとなさったのですが、そうなっては私の存在価値がなくなってしまいますと申し上げると、渋々と諦めて下さいました。

そんなやり取りがあったにも関わらず、どうやら私は卵を買ってくるのを忘れてしまったようです。
卵がないというのは、お料理をする上ではかなりの障害です。
しかしお料理やお洗濯といった家事全般をきっちりやり遂げることこそがメイドの存在意義です。
此処で妥協するわけにはまいりません。



エプロンを外しお財布を持ち、私は外へ繰り出しました。





この辺りは、決して治安が良いとは言い切れません。
あまり一人でうろつくなとは言われていましたが、現在ターレス様はお仕事で外出してらっしゃるのでどうしようもありません。


ついでに失礼を承知で申し上げますと、お心遣いは大変嬉しいのですが、ターレス様は多少、何と言うか・・・過保護であるような気がします。
私は15歳のときにターレス様に拾われたのですが(実際には「買われた」のですが)、それ以前の職業柄、自分の身を自分で守る程度の実力は身につけたつもりです。
ターレス様の所に住まわせて頂いてからもう四年ほど経ちますが、その間もターレス様やセリパ御姉様に十分な修行はつけて頂きました。

そのような現状の上、私はターレス様のメイドです。使用人です。
使用人というのはご主人様に使用されてこそ使用人であるというのに、そのご主人様であるターレス様と一緒に用を済ませるなんて!!

・・・・と常々思ってはいるのですが、やはりあのお方には逆らうことが出来ず、時折お買い物に付き合っていただいているのが事実です。
そしてそういったお心遣いを非常に嬉しく感じている、というのも。


「卵、卵・・・・っと。」


ラッキーです。
何と今日は「卵の日」らしく、卵のお値段がとても安いです。
先日卵を買い忘れたことは悔やまれてなりませんが、しかしこれでプラスマイナスゼロです!


「ありがとうございましたー」


代金を支払い、店員さんの声を後ろに来た道を戻ります。


いつも思うのですが、この辺りのお店の看板は少々派手すぎると思います。
勿論お店の中で行われていることを考えればそれも不思議なことではないと思うのですが、しかしこうもピンクばかり使うというのは一体どういうことなのでしょう。
色彩感覚を疑ってしまいます。
一つぐらいモノトーンで統一されたお店があってもお洒落で素敵ではないかと思うのですが、残念ながらそういったお店は一つも御座いません。

ちなみに、前述しました私の以前の職業というのも所謂いかがわしいお仕事ではありましたが、そのお店は決してこんなにギラギラしていませんでした。
世の中には色々な人がいるものです。


「・・・・オイ、お前。ちょっと待て。」


・・・・嗚呼、すみません。
本当なら以前のお仕事についてもう少しお話したかったのですが、面倒なことになってしまいました。
過度の運動を強要させられそうです。


「お前、ターレスんとこの女だろ?」


柄の悪いお兄様方に絡まれてしまいました。

世の中には色々な人がいると申し上げましたが、まったくその通りです。
身長や年齢はターレス様をそう変わらないお兄様方ですが、この違いは一体何なんでしょう!
こんな人たちの口からあの方の名前を聞くことすら、耐えられません(いえ、勿論耐えなければ世の中渡っていけないのですけれど)


「通して頂けませんか。」
「そりゃ無理なお願いだぜお嬢ちゃん。安心しな、大人しくしてりゃすぐに帰してやるからよ。」
「すぐに帰して頂けるということは、あなた方は早漏だと判断してよろしいのかしら。」
「なっ!!」


代表格のお兄様が怒りを露にします。
すると周りのお兄様方(位でいうと『平社員』の方々)も、戦闘体制に入ります。

まったく、いい加減にして欲しいです。
こうしている間にもターレス様はもう帰っていらっしゃるかもしれないのに・・・ご主人様の帰宅に間に合わない夕食を作るメイドなどメイド失格です!!


「てめぇ、あんま調子乗んなよ!!!」


どうやらその声が合図だったらしく、一人の平社員が襲い掛かってきました。
暴力はあまり好みませんが、正当防衛のために暴れることは嫌いではありません。

向かってきた平社員の鳩尾にターレス様直伝の蹴りを一つ。

卵が割れないよう配慮したつもりでしたが、大丈夫でしょうか。


「・・・・ぃ・・・・・・っ、」


平社員の方は大丈夫ではないらしく、声にならない声を上げてその場に倒れこみました。
早漏の上に弱いだなんて、男としてまったく使えません。


「て、めぇ!!」


二度目の合図と共に、残りの平社員が腰から何かを取り出しました。

・・・・ピンチです。大ピンチです。

拳銃とかナイフとかいったものが見え隠れしています。
これでは間違いなく卵が割れてしまいます・・・・!!


「折角半額でしたのに・・・・」


半額の卵を二パック買えば、結果としては半額ではありません。全額です。
嗚呼、折角プラスマイナスゼロだと思って喜びましたのに・・・。

と、憂いている間にも平社員はじりじりを迫ってきます。
さすがに一対三では私の方が不利ですので、取り合えず卵のことは頭の外に置いておきまして、今はどう相手をぶちのめす・・・・
あ、すみません言葉が悪かったですね。
相手をどう倒すかだけを考えます。

しかし、その必要はなかったようです。


ひゅっ、と私の横を何かが通り抜けていきました。
どすっという音がして、それと同時に平社員の一人が聞くに耐えられないほど汚い声を上げました。
彼の左肩にはナイフが刺さり、どくどくと血が流れ始めています。


「お、おい!!」


別の平社員が何かを見つけ、慌て始めました。
私もその目線を辿ろうとしましたが、そうするまでもなくすぐにそのお方の存在に気づきました。


「・・・・・なぁにやってんの、テメェら。」


見なくともわかりましたが、やはり見てしまいます。


「ターレス様!?」


何と言うことでしょう、10メートル程離れたところにターレス様がいらっしゃいました!
お仕事の帰りなのでしょう、スーツの上着を左肩に引っ掛けるようにお持ちになり、口にはタバコを銜えていらっしゃいます。
ということは恐らく、先程のナイフは右手で軽ーく投げられたのでしょう。


「お、おい、やべぇぞ・・・・」


平社員だけでなく、その代表格の男も動揺しているのが簡単に見て取れます。
それだけでもみっともないこと極まりないですのに、何と彼らは必死に逃亡を図ろうとし始めました。


「ちっ・・・、動くなよ!!」


ターレス様が何をなさるかわかっていたので、言われたとおり私はその場から動きませんでした。
というより、鋭く変化したターレス様の瞳に体が動かなくなった、と言った方が正しいかもしれません。




パンパン、と高い音が鳴り、それから、ばたばたと男たちが倒れました。




「ったく、油断も隙もありゃしねぇ・・・・オイ、大丈夫か?」
「あ、はい。・・・・申し訳ありませんでした。」
「だから一人で外出んなっつってんのに・・・・・」


何というか・・・本当に申し訳ない限りです。
私のために無駄な銃弾と体力を使わせてしまいました。


「申し訳ございません・・・・お仕事帰りで、疲れてらっしゃるのに・・・・」
「あ?別にいーんだよ、大して疲れてねぇし。気にすんな。」


気にするなと言われましても、やはりメイドという立場上気にしないわけにもいきません。
しかしいつまでも此処で落ち込んでいるわけにもいきませんので、取り敢えず、歩き出したターレス様の後ろから私もついていきます。


治安が良くないこの辺りでは、こういった出来事は日常茶飯事です。
そして残念なことに、このような事件が起きた場合、負傷又は死亡率は女性の方が圧倒的に高いのです。
同じ女として、とても辛いです。
自分の身を自分で守れない者が住むべき場所ではないということは重々承知しておりますが、知らずに済むのなら他人を傷つける術など知らない方が良いのだと私は思います。

ですけれど、私は、以前のお仕事やターレス様の元でそういった実力を身につけることができたことを、とても幸せに思います。

お帰りになったターレス様におかえりなさいとお声をかけることが出来ること
そして、時折こうして一緒に家の扉をくぐることが出来ること
そのことを、とてもとても幸せに思います。




・・・・さて、少し長くなってしまいましたが、これが私の日常です。

皆様にこの幸せが少しでも御理解して頂けたなら、私はもっと幸せです。











「あっ、ターレス様!奇跡です、卵が一つも割れずに残っています・・・・!!」
「・・・・・・そーかよ、そりゃ良かったな。」










『どんなタレが読みたいですか?』アンケート見事に第一位だったマフィアターレス、です。
ま、まふぃ・・・あ・・・?
・・・すみません、マフィアターレスというよりは寧ろメイドヒロイン・・・・!!
密かな目標は「ターレスにナイフを投げさせて銃を使わせる」ことでした(笑)
あといくつかこの二人でお話を書きたいと思っておりますので、その中で何とかもう少しマフィアっぽさを出せればなーと思っております。
アンケートに投票してくださった方々、本当にありがとうございました!!