普段は気にも止めないものが酷く美しく思えるのは、今の自分の状況があまりよろしくないものだからに違いない。
不意に感じる暖かさは心地良い筈なのに、今の俺が欲っしているのかといえばそれは微妙なところだ。
あー・・・・・四角い空が青くて綺麗だな。何て。
全く今日はツイてない。
休みの筈の日常に急遽舞い込んだのは勿論仕事の話。
遂に上の連中は腹を決めたらしい。ここ数日この辺りをかぎ回っていた奴らの本拠地に乗り込む、と。
だが乗り込むのは俺の役目じゃない。
乗り込む「城」の正確な位置を知るため・・・説明すんのめんどくせぇな、要するに今日の俺の仕事は「囮」だったわけだ。
一人だけ残してあとは始末しろ。それが条件。
結果から述べるならば、仕事は上手くいった。
煙草を咥えながら着替えて家を出て、予想していた地点で怪しい男を発見。
そこから事は始まり、数十分に渡って数人の男たちとどんぱちが続いたが何とか一人のみを残すことに成功。
後は俺の仕事じゃねぇ。逃げ帰る残された一人を追う上の連中を視界の端に納めてから、俺は踵を返した。
どんっ どんっ
耳慣れた音が二回と、餓鬼の姿。
そう、まだほんの餓鬼だ。
俺は自分が撃たれたのかどうかを考えるより早く銃を構えた。
「まだ餓鬼とはいえ・・・・・その格好、敵だとわかってて手加減は失礼だな。」
安心しな、子どもをいたぶる趣味はねぇ。
呟いて、俺は引金を引いて一発で子どもを仕留めた。
「・・・・結構痛ぇな。」
ゆっくりとその場に座り込む。見ると、一発は腰をかすり一発は足を貫通していた。
「あの年で、大した腕だな。」
最も、そうでなきゃいちいちあんな餓鬼に弾を使いはしなかった。
あいつの弾が俺に触れたからこそ俺はあいつを撃った。
どうせ後に残せばより面倒になることがわかってるんだ、今始末しておくのが利口ってもんだろ。
だがしかし、確かに休日にわざわざ仕事に借り出され挙げ句餓鬼のせいで傷を負ったことは幸運ではなかったにしろ、わざわざ特筆するほどのことでもない。
今日という日がツイていない日として記憶されるための最も大きな原因は、今俺に包帯を巻いている―――が現場に現れたせいだ。
「ターレス様!?」
血が止まり次第戻ろう。
そう考えていた俺にとって、これはなかなかどうして計算外の出来事だった。
「おー、。どうしたんだよ。」
「どうした、じゃないです!!」
横にある餓鬼の死体には目もくれず(らしいといえばらしい)ぱたぱたと走り寄ってきた。
「さっき上から連絡がありました、『任務成功だ、ご苦労』って・・・なのにターレス様はいつまで経っても帰ってらっしゃらないから・・・・!」
探しにきたんです、と、俺の前に膝をついては捲し立てる。
よく見るとは真っ黒の服、いわゆる正装で、腰にもしっかり銃を携えていた(ちなみにセリパの姐御の正装はやたら露出が多い)
「珍しくお前も戦闘体制だな。」
メイドとして家にいるは、俺と違って滅多に仕事に出ない。
の正装を見るのは久しぶりだ。
「・・・・・嫌な予感が、しましたから。」
「へぇ・・・・でも残念だな、その予感は当たってるようで当たってないぜ。」
足と腰を見せて致命傷を受けていないことをアピール。
するとの頬に、一筋。
「、今・・・っ、包帯、巻きます・・・・・」
それをぐいっと手の甲で拭い包帯を取り出したものの、流れ落ちるそれは本人にもどうしようもないらしい。
俺の足の手当てをしているため自然の顔は下を向くことになり表情も涙も見ることは出来ない。
が、しかし、肩の震えと時折聞こえてくる鼻をすする音は隠しようもなかった。
「・・・・俺は生きてるし、大した傷でもねぇよ。」
ぴくり、と肩が動いて。
一度俺を見上げた目線はまた宙をさ迷い、結局下に向けられて。
俺は、これが、この空気が、とてつもなく嫌いだ。
だからいつもは傷を負えば家に帰るより先にバーダックのところへ立ち寄る。家に戻るのはある程度の処置を受けてからだ。
勿論その場で完治するわけではないから傷を負ったことはにもバレる(特に隠さなければいけない理由もないが)
それでも、こいつの目に直接傷を触れさせることは極力避けていた。
その方がお互いの心に波風が立たないということを何となく知っていたから。
「。」
包帯を巻き終えたらしいの手を取る。
俺の血がついたそれをゆっくり口に含むと、泣き顔を隠すのも忘れては驚きを露にした。
「た・・・・っ、」
指の間を舐めるとびくりと反応して即座に手を引っ込めた。
どこにそんな力があったのかと一瞬驚いたが、素直な反応が妙に面白くて、間を置いてから俺はくつくつと笑った。
「なっ・・・にが、おかしいんですか、」
「いや・・・・。、よく見ろ。」
「俺は、ちゃんと生きてる。」
綺麗な目が開かれて、伏せられて。は何か言葉を探しているようにも見える。
「・・・・知ってます。」
「そ。なら良い。」
「っ、私が・・・・私が、こんなことを言える立場じゃないことは重々承知です。」
だからこれから言うことはヒトリゴトです、そう前置きをしてから、うつむいて。
「ターレス様がいなくなられてしまうことが、何よりも怖いです。」
はぎゅっと拳を握って。相変わらず表情は見えない。
言葉がいかに意味も効力がないものか、俺たちは体で覚えている。
だからあらゆる約束も、道具にはなれども救済には到底当たらないということも、心が知っている。
それでも
「俺は今生きてるし、これからもそう簡単に死ぬつもりもねぇよ。」
それは紛れもない、事実だ。
「生憎、下の奴らに俺の地位と仕事を譲ってやる気はさらさらないんでね。」
ぽんと頭に手を置いて顔を覗き込むと、は困ったような顔で微笑った。
それは太陽等到底似合いはしないが、この狭い空の下では十分に映える笑顔だった。
マフィア第二話。今回は少し真面目な感じで。
頭で知っているということと心でわかっているというのは全く別物だと思うのです。
少しはマフィアな雰囲気が出てればなぁと思うのですが・・・如何でしょうか。