両親が海外出張から帰ってきた。ということで、遠い遠い親族も巻き込んだ何やら盛大なパーティーとやらが行われることになった。
勿論、娘たる私が出席しないわけにもいかない。どこぞのホテルの一室を貸し切ってのパーティーで、見た目は麗しくも着ているほうとしては迷惑極まりない窮屈なドレスを身に纏って、私は笑顔を振りまいていた。
(これが健全な高校生の姿・・・?)
思わず自分の生活に疑問を抱かずにはいられない。そりゃまぁ、多少不健全チックなお付き合いをさせて頂いてる男性はいますけれども、それは私の意志があってのことなんだし?
それに比べると、今日のパーティーには私の前向きな意志は一つも反映されていない。久しぶりに両親が帰ってきたんだから、家でゆっくり団欒したいと思うのが自然でしょ。
愛想笑いもいい加減疲れてきた。確かに久しぶりの親族の再会は楽しい、でも本当に親族なのかどうかも疑わしいほどの遠い親戚との再会(もしかしたら初めて会うのかもしれない)は別段嬉しくも何ともない。
疲れが苛々に転換し始めた私に比べて、同年代の従姉妹やら親戚やらはいつ見ても場慣れしている。ついでに髪色から何から何までが滅茶苦茶派手だ。
(に、匂いが・・・・)
入り混じった香水の匂いがキツイ。ついでに叔父様方の相手をするのももうきつい(そんなに女子高生が珍しいんだろうか)
私は持っていたグラスをテーブルに置いて、目立たないようにそっと部屋を後にした。
「とはいってもねー行くとこないしなぁ・・・」
そういえばこのホテルは屋上に出られたような気もする。
曖昧な記憶だけれども他に行くところもない私は、とりあえずエレベーターと階段を駆使して何とか屋上に出た(広くてややこしくて大変だった)
「うわ、風きっつ!」
学校なんかのそれとは比べ物にならない、豪華そうな扉を開けると強風にあおられた。
そっと扉を閉めて辺りを見回すと、数組のカップルらしき人たちがいるだけで先程の会場に比べれば随分居心地がいい。
そのままのんびりと足を進めて、柵から街を見下ろす。百万ドル、とはいかなくても、まぁそれなりに綺麗な景色だ。
「主役のお嬢様がこんなところで何やってんだよ。」
「!!」
突然後ろから、それもかなりの至近距離で声をかけられて驚いて振り向いた、ら、そこには見慣れた色黒色男がたって・・・・えぇ!?
「え、ちょ・・・え!?何で!?」
驚きがそのまま言葉になってしまった私を見てターレスは「予想通りの反応ありがとよ」とくつくつと喉で笑った。
「お前の母親に呼ばれたんだよ、も退屈するだろうから良かったら、ってな。」
「そ、そうなんだ・・・え、じゃぁさっきまであそこにいたの?」
「おー。しっかしお前見事に気付かねぇのな。」
「ご、ごめん・・・・」
確かにターレスはいつもとは違い正装だ。
とはいえ、ネクタイは緩められてシャツのボタンもだらしなく開け放たれてるのに、何だろう・・・コイツがやるとそれはそれでいい感じだからちょっと腹が立つ。
「お前、俺に気付かねーうちにさっさと部屋出て行くしさ。わざわざのために来てやったってのに、薄情だよなぁ。」
「だ、だからごめんって、だって私も結構それなりに忙しかったんだもん・・・」
「あぁ、知ってる。あんなエロ親父に愛想振りまいてんじゃねーよ。」
「別に好きでやってたわけじゃないんだけど・・・・ていうか退いてよ、」
私を挟むようにして両側から腕をフェンスにかけてるもんだから、異様に距離が近い。今更照れるような仲でもないのはわかってるけどやっぱり恥ずかしい。
「やだ。」
「やだ、って・・・中、戻らないの?」
「あぁ?あんなとこ戻れっかよ、何あの女共・・・・」
マジ鬱陶しい、とターレスは顔を顰めた。なるほどこの色男は会場内で数々の女性の目を惹きつけていたらしい。
・・・正直その現場を見なくて良かった、もし万が一目にしてたらそうでなくてもつまらないパーティーが更につまらなくなったに違いない。
「あの、ほんと私だけでももう戻らないと・・・!」
「ヤダって。何、照れてんの?かーわーいー」
「うるっさいなぁもう!」
何とかその場から逃げようとはしてみるものの、所詮私の力では無駄な足掻きというやつで。
そこから開放されるどころか、逆にぎゅううと抱きしめられた。
「ちょっ、何す・・・!」
「すっげ似合ってる、ソレ。」
「っ、」
かああ、と顔が熱を持つのがわかる。顔だけじゃない、身体中が熱い。
こうなったら最後、自分がもうターレスに逆らえないことを経験上私はよーく、嫌というほどに知ってる。
諦めてターレスを見上げた。
「・・・ありがと。」
とりあえずお礼を告げると、満足そうに笑ったターレスはゆっくりと私から腕を解いた。
かと思えば今度は私の右手を取って、目線を合わせたままその甲にキス。
「さて・・・・では何をご所望ですか、お姫様。」
一瞬何が起きたかわからなくて、でもすぐにさっき以上に全身を熱が駆け巡った。やばい、ほんとにやばい、死ぬかもしれない。
恥ずかしい、でもドッキドキ心臓がうるさいのはそれだけの理由じゃない。ちょっと、かっこよすぎなんじゃないの、アンタ!
「じゃぁ・・・・此処から、連れてって。」
あまりの恥ずかしさにまともに顔は見れなくて、俯いたままぎゅっと抱きついた。
途端にふわりと身体が浮いて、そのまま屋上より更に高くへ。
姫を攫っていく魔王か、はたまた姫を助ける王子か・・・・
つい二日前までは一緒にいたし、どうせ明日になればまた隣に並んで登校する。だというのに、このときばかりは彼の存在が非常に特別に思われた(周りの環境って大事)
ヒロインの両親は多分きっと偉い人。実はお金持ちかもしれない。