一種の賭けだとか、ゲームだとか。
こんなことに、わざわざ定義づけるつもりはない。

それはもっと単純なことだ。








「あぁ、それはわからないでもないなぁ。うん。」

どっちにしろ性格悪いなぁとは思うけどね。


うんうんと頷きながら、はそう付け足した。


「要はプライド?とかそういう問題なんじゃないのかな・・・と。思うんだけど。」

パチン、パチン、と手元で小気味良い音を立てながら、は顔を上げずに繋がれた紙の束を見つめたまま更に付け足した。


「プライド・・・プライドなぁ。そこまで言うと、何か大袈裟な感じしねぇ?」

対するターレスも、やはりの顔を見ることもなく、椅子の背もたれに身体を預けて天井を見上げながら答えた。






何かを得る代わりに何かを失う。そんな等価交換の法則は勿論ただの高校生にも当て嵌まる。
眠くてつまらない授業から抜け出して自由爽快な時間を得た代わりに、二人は放課後の時間を費やして、あと2週間もすれば始まるオリエンテーション合宿のしおりを作るはめになった。
人はこれを等価交換の法則というよりは「軽い罰」と呼ぶかもしれない。


合宿かぁ、面倒な気もするけどこういうのって行けば意外と楽しいんだよね

の合宿に対する見解はそれなりに前向きであるが


何でそんなめんどくせぇことすんだよ

と、ターレスの見解は些か前向きとは言い難い。



「相手に全部持っていかれたとか、持っていかれるのが嫌だとか、自分支配されるのが嫌だとか思うんじゃないのかな。
 そういうのって自分がプライドを持ってるからこそ、じゃない?」
「そういうもんかねぇ。」
「あんたあれだけ女の子と付き合っといて、そういうこと思ったことないの?」
「ねぇな。」



椅子にぐったりと体重を預けて、だりー帰りてーうぜーと呻くターレスは、最早ホッチキスすら手放して完全にやる気は消滅している。
そうするとはこの膨大な量の紙を一人でしおりにまとめなければならないわけであり、向かい合わせた机の下でターレスの足をげしげしと蹴りながら、やる気の無い男を急かした。



「そういうお前は?そんなこと思うぐらい惚れたこととかあんの?」
「そりゃあるよ、報われたものから報われなかったものまで色々・・・・」


当然でしょうとでも言いたげなの言葉に、ターレスはがたりと身体を元の体勢に起こした。


「うっそマジで?お前が!?」
「・・・・何でそんな吃驚すんの。」
「すっげぇ意外なんだけど。本気で。」
「どういう意味よ。」


む、とターレスを睨み付けると、どこか気まずそうに視線を逸らされた。
多少まずいことを言ったという自覚はターレスにもあるらしい。


「後は・・・全部もっていかれた後で何かあるのが嫌なんだよ。要は傷つくのが嫌、っていう。」
「あー・・・・」


肯定とも否定とも受け取れる返答。成る程戦闘民族であるサイヤ人には、傷つくのが嫌だという感情は理解に苦しむのかもしれない。
しかも戦場は単なる「恋愛」である。
自分はそうやって恋愛の中で傷ついた経験があるけれども、それらを理解できない人間がいてもおかしくはないなとはふと思った。


「ちょっと臆病にはなっちゃうけどね。学習能力ない餓鬼じゃないし。」


机の上に肩肘をついて、ふーん、との話を聞くターレス。
そういえば彼女についての評判は多く聞いているが、本人からこうして恋愛に対する見解(それこそそんな大袈裟なものではないが)を聞くのは初めてだった。
軽蔑するわけでもなくだからといって心を動かされたわけでもなかったが、興味深い人間の新しい側面を知るのは面白い。

残念ながら、今現在がターレスに望んでいるのは自分の新しい一面を知ってもらうことではなく、兎に角手を動かしてもらうことだけれども。





「あんたこそ、傷つくのが嫌で遊びまわってるってわけじゃないの?」
「いや、それはねぇな。」
「・・・・即答・・・・?」
「それがそれなりに楽しいと思ってるからやってるだけ。別に負の感情に動かされてやってるわけじゃねぇよ。」



自分が遊び人だと定義されていることには異論はないが、その遊び人の定義(というよりもイメージ)には世間一般とズレがある気がする。
今のの発言を聞くと、そう思えないこともなかった。


「お前こそ、そう思うんなら俺の相手すりゃいいじゃん。相変わらずつれねぇんだもんなぁ。」
「何で私が・・・・」


夕暮れ時、教室に二人きり、更にその二人の話題は恋愛について。
これ以上のシチュエーションはないだろうというほどに完璧な演出が自然となされているにも関わらず、寧ろは心底嫌そうな表情を見せている。


は、冗談言ってないで早く手動かしてよとぶつぶつ文句を垂れながら再び紙の束に目線を落とした。

ターレスは3秒ほどその姿を見つめてから、不意に手を伸ばして彼女の顔にかかった彼女自身の髪を掌で避けた。







――例えば、俺がに負けを認める日が来るのだろうか?




怪訝そう、というよりは単純に不思議そうな、きょとんとした顔で自分を見つめるにターレスは何でもねぇよと一言告げて手を離した。





勿論、今はその答えなどどこにもない。









久々更新です。申し訳ない。
このシリーズは「友達以上恋人未満の悪友同士がくっつく過程」を書きたかったのですが、そもそも「友達以上恋人未満の悪友同士」を書くことが非常に難しいという・・・
致命的だ・・・