攘夷戦争

それはあの時代を生きた人間を語る上では、外すことの出来ないキーワード。
あの時代を駆け抜け、今もまだもがき続ける私たちとは、切っても斬っても離す事の出来ない戦争。





「俺は、攘夷戦争へ行く。」

桂ちゃんと晋助くんが竹刀で鍛錬しているのを、私と銀ちゃんは縁側に座って見ていた。
暑い暑い夏。じんべえの袖を肩口まで捲り上げていても、布が肌に吸い付く感触は拭えなかった。


「・・・は、てめぇもかよ。」

突然の桂ちゃんの言葉に動きを止めていた晋助くんは、自我を取り戻すなりそう言った。そっか、晋助くんも。


「銀時、お前はどうするんだ?」

「何、その愚問。暑いし面倒だし別に血とか好きじゃねーし・・・・」


銀ちゃんは独特ののんびりした口調で


「行くに決まってんジャン。」


晋助くんはまたてめぇらと一緒かよと吐き捨て(でもあんまり嫌そうじゃなかった)(晋助くんの感情は直接的に言葉にならないからわかりにくい)、桂ちゃんは苦笑いを零した。
あとは私だけ。答えもう決めてある。
天人を討ち果たす攘夷戦争、それは徐々に激化していて私ですら噂は聞いていた。そしてまだ青い私の激情を駆り立てて仕方がない。


「・・・・私、も、行くよ。」


三人がはっと私の方を向いた。一番に晋助くんと目が合った。晋助くんの目は綺麗すぎて、時々、何を考えているのかわからない。だけどその目は私を否定してはいないような気がした。その証拠に、ほら。
一番に口を開いたのは桂ちゃんだった。


「お前・・・本気か!?」

「冗談で、こんなことは言えないよ。」

「しかしお前はまだそんな歳で、何より男じゃないではないか!」

「知ってるよ。でも、私より小さくても戦争に向かってる子もいるし、男じゃなきゃ戦えないなんて話も聞いたことないよ。」


桂ちゃんが『怒ってる』
それは珍しいことだった。桂ちゃんはいつも、怒るより先にまずは諭してくれていたから。


「俺も、あんま賛成しねーなぁ。」


珍しく銀ちゃんまで桂ちゃんに加勢した。だけど私は引くつもりはなかったし、何よりこの程度のことは最初から予想していた。
だから、今まで口に出さなかったんだ。


「心配だよ、俺は。天人なんて鬼みてーな奴らもいるしさ。そんな奴の前にみたいなのが立ったら、何か・・・なぁ。喰われちまいそう。」


銀ちゃんらしい言い草に思わず笑ってしまった。確かに天人の中には鬼みたいな奴もいるけど、でも人喰っていうのは聞いたことないよ、銀ちゃん。


「いやいや笑ってっけどさ、俺結構マジで心配してんだぜ?」

「うん、ごめんね、でも大丈夫だよ。開けた喉に刀を突き刺してやるからさ。」

、お前まだそんな、」


桂ちゃんはどうしても私が行くことを許せないみたいだった。だけど私はどうしても行かずにいられなかった。
国のため、先生のため。理由は違っても、みんなが歩く方向は同じ。だから私も、理由は違えども敵を同じくしているから、その道を歩もうとしているのに。
沸騰して出来る泡のようにふつふつと湧き上がるこの気持ちは、決して割れて消えることもなければ空気中に溶けて同化してしまうこともなかった。此処にいるみんなはそれぞれ何かしらの蟠りを抱えていて、私にとっては天人の存在こそがまさにそれなのだ。


「・・・いーんじゃねーの、別に。行きたいんなら行けば。」


ずっと黙っていた晋助くんが口を開いたと思えば、出て来た言葉は私の背中を押してくれるものだった。


「高杉!?」

「幼いったってもうすぐ十五だろ、コイツも。俺と三つしか違わねぇじゃねーか。刀だってそこらの男よりずっと腕が立つってしょーよー先生も言ってたしよ、俺ァ何でてめぇらがそこまで躍起になってを止めるのかがわかんねェ。」

「お前、が心配じゃないのか!?」


桂ちゃんが声を荒げた。晋助くんは、何だそれ、とでも言いたそうな顔で桂ちゃんを見て、やっぱりわかんねェ、と続けた。


「じゃぁてめぇらは、が『心配だから行かないで』とても言えば行くのやめんのかよ。」


晋助くんの言葉に桂ちゃんは驚いてから悲しそうな顔をして黙って、何か言いたそうにしてた銀ちゃんも俯いた。晋助くんは他の二人より鋭くて尖ってて笑ったり喜んだりすることが少ないけど、時々はっとするようなことを簡単に口にする。
優しいとかあったかいとかそんなんじゃない。だけど晋助くんはよく理解ってた。私が誰に何を言われても決断を変えることはないっていうことも、誰が止めても桂ちゃんも銀ちゃんも行くのをやめようとはしないだろうっていうことも。


「何を心配してんだかわかんねーけど、ずっと俺らと稽古してきたんだ。鬼なんかに喰われるわけあるめー。」


顔洗ってくる、そう残して晋助くんは行ってしまった。
私は桂ちゃんと銀ちゃんにごめんねありがとう、でも大丈夫だよ私は鬼よりも鬼らしく振舞えるから、と残して晋助くんの後を追った。



「鬼よりも鬼らしく振舞える、か・・・或いは、確かにそうかもしれんな。」

「ったく、高杉のヤロー、言いたい放題言いやがって・・・・」


ちらりと振り返って見た二人の表情は、少し明るくなってた(ように見えた)











「し、晋助くん!」


晋助くんは顔をばしゃばしゃ洗う手を止めて振り返った。呼んではみたものの私は何を言うか決めてなくて、ちょっと困った。


「あ、えっ、と・・・」

「何だよ。」

「うん、あのね、・・・・ありがとう、って。」

「・・・何が?」

「わ、わかんないんだけど、嬉しかったから。」


晋助くんは眉を顰めて私を見下ろした。随分慣れたとはいえ、やっぱりまだ少し怖い。


「ヅラと銀時に言う台詞じゃねーの、それ。」

「うん、言ってきたよ。でも、晋助くんにも言いたかったから。」

「・・・そうかよ。やっぱおめーら、よくわかんねェわ。」


晋助くんはくるりと反対を向いてお風呂に向かって行った。
もう何度も何度も見たその背中は、戦場ではどんな風に見えるんだろうかと漠然と考えた。




(晋助くん、知ってたのかな・・・私が天人を嫌いな理由。)




それは私が荒野の果てに向けて歩み始めた日。
その時は、その荒野は私には素晴らしい草原に思えていたのだ。