ざっくざっくと豪快に音を立てては歩く。
滅多に出会うことのない景色を喜んでいる様子はなく、それどころか今の状況が心底鬱陶しいといった表情を浮かべている。
数歩後ろには沢山の人が倒れていて、沢山の真っ赤な血が広がっている。
それを「狂気的な美しさ」と表す人間がいることをは知っているが、残念ながら自身はそんなことを少しも考えない。
寒い、疲れた、歩きにくい。
元々表情豊かではないはしばしば同族からも「黙ってるだけで怖い」等と形容されるが、その形容がぴったり、そんな表情でひたすら雪を踏みしだく。というより踏みつける。
深い雪のせいで時々足が思うように動かなくなると、その度に顔を顰めた(場合によっては舌打ちも)
「、終わった?」
「・・・・・終わった。」
返事をした瞬間強い風が吹いて、羽織っていた真っ黒い布が飛ばされそうになった。
布切れ一枚で塞げるようなぬるい寒さではないけれども、ないよりはマシ。というよりこれ以上寒くなることに耐えられない。
は真っ黒い布を掻き寄せるようにぎゅっと掴んだ。
「お前ね、何その顔、さっきから見てたけど『うわ雪だよ珍しい超綺麗!』とかそういう感情はないわけ?」
「そんな感情ない、珍しくもない、綺麗だけど寒いし動きにくくて鬱陶しい。」
「・・・・あ、っそ。」
がその整った顔を崩すことが少ないのはよくわかっていたが、真っ白い雪の中で「うわぁ」とか何とか感嘆の声を上げて顔を綻ばせるはさぞかし見ていて気持ちが良かったろうに。
当の本人は正反対、いつも以上に表情が硬くなっている。いや、確実に苛立ちの方へ傾いている。
「それ、変な感じ。」
「ン?」
じゃぁ仕事が片付いたところで帰りますか、と愛機に向かって歩き出したところでは言った。
一歩先を歩いていたターレスが それって何 と聞くと、は「布」とこれまたそっけなく言った。
「布?」
「ターレスが真っ白って。何か違うよ。」
何か違う、と言われても。この布は出発直前に上司からそっけなく渡された布で、自分で好き好んで白を選んだわけではない。
「別に俺が選んだわけじゃねーもん。」
「うん、そうだね。そうなんだけどね。」
何か思ったから言っただけだよ。
相変わらずは口以外の顔のどこの筋肉も動かさない。
もう少し何か言い返してやろうとターレスはを振り返ったが、残念ながらにはその真っ黒な布がとてもお似合いである。
「女性にはピンク色を」などという気遣いを見せるような人種じゃなくてよかったな、とターレスは一人胸を撫で下ろす(似合わないわけではないだろうが普段ののイメージとはかけ離れているし、そういう一面は自分だけが知っていれば良い)
「あー、寒い。」
「飛んでくか?」
「無理、風強すぎてどっか飛ばされる。てか余計寒い。」
目の前には愛機が見えている。さすがにその辺りの雪はまだまだ真っ白で、少しも赤が染みていない。
(あー、もうちょい早く片付けてたらな・・・)
もしもあと少し早く自分の敵を片付けられていたなら、真っ白い雪にしみこんだ真っ赤な血の上に立つ無表情なを拝めたに違いないのに。
そして、その情景はきっと綺麗だったに違いないのに。
損をした。
そんな気持ちでターレスはちらりと後ろのに目をやった。
真っ黒い布をしっかりと押さえ込んで、鬱陶しそうに雪の上を歩くの頬は寒さと寒さの中での運動のせいから少し桃色に染まっていた。
「・・・・・・・・・・ま、いっか。」
少し歩きづらそうなに手を差し出すと、素直に握ってきた。
「ありがとう」という言葉つきなのは、特に意外でもない。表情が乏しくともわきまえる部分はわきまえている、そういう女なのだ。
無表情のありがとうを可愛く感じている自分に、ターレスは長い時間の流れと慣れを自分の愛情の深さを感じた。
(昔は少し不気味に、というか、少し怖かった)
珍しい?クール系のヒロイン。
表情や言葉という表現力が乏しいだけで、タレが好きじゃないというわけではないのですよ。
長く一緒にいるうちに、タレもヒロインのそういう部分がわかってきた・・・ら、いいなぁと。