「ちょ・・・・これ全部一人でやるんすか!?」
そのあまりにも膨大な量に、は思わず叫んだ。
さすが理事長が某有名会社名だけあり廊下の天井は高く、その声は見事に響き渡った。
「ここ一ヶ月分のツケを払うときが来たってことだ。」
「嘘、やだもう絶対無理!」
「うっせぇ、てめぇが終わらせるまで俺も帰れねぇんだから黙ってさっさとやっちまえ。」
目つき、言葉遣い、態度の全てが悪く頬に十字傷のあるこの男は、一見や〇ざのようであるが実はの担任というれっきとした『教師』である。
遅刻が目立って多かった教え子に罰を与えるべく、仕方なくこんな時間に廊下につっ立っているのだ。
(このや〇ざにも負けない態度の悪さは親子そっくりだわ・・・)
は顔を引きつらせながら、今のところ自分に最も近しい所にいる男を思い浮かべた。
最も、いくら見た目や態度が似ているとはいえ、目の前の男と彼とは本当の親子ではないのだが。
「おらよ、これ使え。」
「はぁい・・・・」
本当に、この大量の窓を一人で拭かなきゃいけないのか―――
千切られた新聞紙を受けとりながら、は盛大に溜め息を吐いた。
「、お前ら・・・・相変わらずうまくやってんのか?」
「はい?」
ようやく三分の一程度終わらせた頃、後ろで座り込んで自分を監視していたバーダックが口を開いた。
唯座り込んでるだけなら手伝ってくれてもいいじゃないかと思わずにいられないが、口にしたところで無駄に終わるだけだということはわかりきっているので敢えて心の中に閉まっておく。
「うまくって・・・・勉強すか?今んところは特に問題ないと思いますけど・・・・・(あ、でもこないだの数学欠点ギリギリだった気がするな・・・)」
「違ぇよ、あのくそ餓鬼のことだ。」
「あ?・・・・あぁ、まぁ・・・・・一応は・・・・」
突然どうしたのだろうと、は後ろを振り向き新聞紙を握り締めたまま首を傾げた。
「お前さぁ・・・・・・将来嫁に来んのか?」
「は・・・・・・はぁ!?ターレスの!?」
「他に誰がいるってんだよ。」
『無干渉不干渉』をモットーに生きているのではないかと思うほど生徒に無頓着なくせに妙に人気だけは高いバーダックが自分のことをアレコレ聞いてくるのは珍しい。
と思ったらその干渉の矛先は妙な方向を向いていて、オンナノコらしく『やだぁ先生、チャン恥ずかしい★』とボケるのも忘れて思わず本気で驚いてしまった。
「いや、別にそこまでは・・・・あいつだってそんなことまで考えてないだろうし・・・・・急にどうしたんですか?」
「いや、何と無く。下手したらお前が俺の娘になっちまうんだなぁと思ったんだよ。」
「・・・・・・・・・遂に私も宇宙人の仲間入りか・・・・・・・・」
嫌ではないが喜ぶことでもないなと思いながら、は続きに取り掛かった。
「・・・・・ぁ、そうだ。先生、私からも質問。」
「あ?」
「中学の時のタレってどんなんでした?」
顔だけを後ろに向けながら尋ねると、心底『めんどくせぇ』という顔をしているバーダックと目があった。
「んなもん俺じゃなくてあいつに直接聞きゃいいだろ。」
「や、でも何か言いたくなさそうっていうかいつもはぐらかされるっていうか・・・・」
「・・・・とにかく荒れてやがったんじゃねぇか。」
本人が言いたくないと思っていることを、いくら親であるとはいえ他人である自分が喋るのもどうなのか――――
なんて考えは、勿論バーダックには浮かばない。
「女遊びは勿論、今より喧嘩っ早かったぜ。あいつに半殺しにされた奴とか、多かったんじゃねぇ?」
「へぇー」
それは意外だな、と思う。
間違っても今のターレスは『紳士』ではないし非常にキレやすくもあるのだけれど、それでも地球人相手に本気出して相手を半殺しにするなんてことはしていない。
彼は彼なりにサイヤ人と地球人の違いについてわかっているようだし、人を傷付けるということが地球でどう扱われるのかも知っているようだった。
「何か・・・・超意外。」
「そうか?俺から見れば、お前といる時のアイツの方が見慣れねぇ感じだけどな。」
「私?」
どちらかというと、ターレスは昔から明るく無邪気な――邪気が無いというのはどうにも違和感があるが――笑い方をする男だった。
ただラディッツに比べて地球という環境に慣れるのが遅く、そのせいでよく警察沙汰な問題を起こしたりもしていた。
ことに女に関しては、もともと恋愛感情を持ちにくいサイヤ人というのを体現しているかのように、あまりよろしくない遊び方をしては相手を泣かせていた。
「サイヤ人は、もともと情に薄い種族からな。」
―――だから、家族である自分達以外に屈託のない笑顔を見せているターレスには驚いた。
バーダックのその言葉に、今度はが大きな瞳を開いて驚いた。
「それもチョー意外・・・・」
「そうか?まぁそれだけ・・・・・っと、」
『バーダック先生、お電話です。至急職員室へお戻り下さい。繰り返します――』
突然の校内放送に、バーダックは鬱陶しそうに立ち上がる。
「じゃぁな、最後に点検に来るから途中で逃げんじゃねぇぞ。」
「わかってますー」
「・・・・・・あいつが変わったのは、と会ってからだ。」
「へ?ぁだっ」
それから憎たらしい教え子の頭をぺしっと軽く叩いてから、職員室へと戻って行く。
(あの馬鹿みたいに真っ直ぐな目がアレなんだろうな。)
――アイツが娘になるというのも、なかなか面白いかもしれない。
歩き慣れた廊下を進みながら、そんなことを考えた。
「大変だったんだろうな・・・・いや、でもそうでもないか。」
普通、息子が暴力事件を起こせばその父親には様々苦労が降りかかりそうなものだが、バーダックに限ってはそんなこともなさそうだ。
「寧ろあの人自身が問題起こしそう・・・・」
「何が?」
「!?」
突然後ろから聞こえた声に、は振り返りつつ後退り、そのまま窓に背中を預けた。
「びびびびっくりしたなぁもう!!」
「何やってんだ?お前・・・・」
ターレスはの右手に握られている無惨な姿をした新聞紙を見て眉を顰めた。
「清く正しい学生諸君のために奉仕活動をしているのサ。」
「・・・・あぁ、遅刻の罰か。」
どうせなら自分に対してももう少し奉仕活動をしてもらいたいものだ
という邪な考えは言わない。
「タレこそどうしたの?ぁ、ていうか暇?暇なら手伝、」
「待っててやるから早く終わらせろ。」
の言葉を遮り先ほどバーダックが座っていた箇所に腰を下ろした。
「(こんの薄情鬼畜冷酷残忍疑似親子が・・・・っ!!!)」
の手の中の新聞紙が、ぐしゃり、と音を立てた。
ターレスは、目の前で必死に窓を拭く彼女を眺めながら、物思いに耽っていた。
(スカート短ぇ・・・・いやあれはあれで好都合だけどよ、他の奴らにまで足見せてどうすんだ!)
とか
(つか細すぎじゃね?あの華奢な体でよく体力持つよな)
とか
挙げ句の果てには
(今日の体位どうすっかな)
とか。
兎に角不純なことばかり真剣に考えていたターレスだが、その思考を発生させた張本人である彼女が妙な動きをしているのを見た。
「・・・・何やってんだ?」
「いや、何かここだけ窓大きくてさぁ・・・・そういうデザインなんだろうけど、上まで届かないんだよね。」
そう言いながらは窓に足をかける。
「オイ、」
「何ー?」
「・・・・・・・・。」
呑気に間の抜けた声を返してきたに溜め息を一つ吐き、ターレスは重い腰をあげた。
「うゎっ、ちょ・・・・何すんのよ、危ないでしょうが!」
突然腰を掴まれ半ば窓から引きずり下ろされるような形になり、思わず声を荒げた。
「危ねぇのはお前だっつの。飛べもしねぇくせに窓上んな。」
「そんなヘマしないよ、てかここ二階だから落ちても大したことにはならないし。」
きょとんとした顔で見上げてくるに、ターレスはもう一度大きく溜め息を吐いた。
「・・・・貸せ、やってやる。」
「へ?あ・・・・ありがとう。」
ターレスは相変わらず左腕をの腰から腹に回したまま、空いた右手で新聞紙を奪った。
(・・・・・てか、近くない?)
「ねぇ、手・・・・」
「あ?」
「だから、手!離してよ!」
「何で。」
「何で、って・・・・・」
―――恥ずかしいし。
勿論、ぼそりと呟かれた言葉を聞き逃すようなターレスではない。
「へぇ・・・・・今更照れてんだ?」
「っるさい!」
は、器用にも後ろからニヤニヤと顔を覗き込んでくるターレスから顔を背けた。
「っとには可愛いよなー。」
「あんたはいつになっても意地悪いわよね!」
「好きな子ほどいじめたくなる、ってやつだよ。」
ほらよ、と窓を拭き終わった新聞紙を差し出され、は渋々受け取った。
「・・・・・もうちょっとまともな愛情表現が好ましいデス。」
「何?まだ足りねぇって?しょーがねーな、んじゃ嫌ってほど表現してやるよ。」
にっこりと恐ろしい笑みを浮かべて、ターレスはを抱いたまま窓に足をかける。
「は?何言っ・・・・・・・うわああぁぁあああ!!!!!」
徐々に校舎が小さくなり、広い青空が目の前に広がった。
「離せこの色情魔!!!」
「離していいのか?」
「ばっか今離したら私死ぬじゃんか!!!」
「(どっちだよ。)」
の手から滑り落ちたぐしゃぐしゃの新聞紙が、その見た目とは裏腹に優雅にひらひらと校庭に舞い落ちた。
「・・・・あ?」
運悪く、それは職員室の窓越しにばっちりきっちり見つかってしまって。
(あんのくそ餓鬼共・・・!!!)
バーダックが次に説教をするのは、一体どっち?
初、バーダック先生との絡み。
かなり前から書いていた小説なのですがやっとUPできました・・・!!
バーダック先生は、無関心不干渉なようでも実はちゃんと生徒のこと見てます(笑)