「っ、」

畳に背を打ちつけ、痛みに顔を顰めた。

予想外の客人のおかげでかなりの害を被った船体は、一夜も明ければ随分と元の姿に近くなりつつあった。
船室で取り留めの無い話(この先の展望を含め)をしていた時、それまでは自然だったが突然目を見開き動きを止めた。
どうしたのかと問うた瞬間、畳の上に押し倒され、突然のことに受身を取ることも儘ならず背中を強く打ち付ける破目になった。


「おい、何すんだてめぇ、」

「これ、何、」


胸元に指を這わされ、独特のズキリとした痛み。そういえばヅラの野郎に斬られた傷がそこにはあった筈だ。


「ヅラにやられた傷だろ。大したことはねェ。」

「こんなに深いなんて、聞いてない。」

「聞いてないも何も、深くなんかあるめー。」


聞く耳持たず、そんな様子では何度も傷の辺りを指先で辿った。
徐々にその表情が哀痛を湛えていくのが目に見えて分かって、胸元にばかり注がれていた視線を顔ごと上げさせた。


「ククッ、何つーカオしてやがんだ。」


だって、そう言いかけた唇を強引に塞いだ。
今にも泣き出しそうな顔。見られることが癪なのか、唇を離し手を顔から離すと、は唇を噛み締め項垂れるように下を向いた。


「泣いてんじゃねーよ。」

「泣いてないもん、」

「・・・そうかよ。」


無駄な押し問答。
顔を隠す髪を撫で上げるように退けた。
が悲しげにゆっくりと瞼を閉じると、ぱたぱたと滴が胸に堕ちた。

腕をゆっくりとの腰に回し身体を密着させた。胸元に感じた微かな痛みは己のものか彼女のものか。


「今度、会ったら・・・私が、桂ちゃん斬る。」

「そうかよ。そいつァ、頼もしいな。」


まさか今更、情に溺れて己の立つ道の屍を見失ったわけじゃぁねぇだろう。
まさか今更、傷や血が怖いなどと考えているわけでは。

わかっていながらも時折零れ出る感情をすくい上げる術を知らないのは、何もだけじゃあるめー。


ゆっくりと髪を撫でると、痛く悲しい声が聞こえた。



(嗚呼畜生め。その哀傷の表情が愛しくて堪らない。)