頭痛が、した。
ずくんずくんと米神が疼く。
掌は焼けるように熱く、鼓動がどくどくと早い。

明らかな、拒絶。
けれど私の前に敷かれたレールがたった一つしかないこと等、馬鹿らしくなるぐらいにわかりきっていた。










囚われざる者[ 『会』










「降りる・・・・の・・・・?」


船内が慌ただしい。
所謂戦闘準備だ。

わかりきっていながらも疑問を口にしたのは、自分がそれを望んでいないからで。


「愚問だな。」
「嫌な・・・・感じがする。」


ようやく見え始めた地上をじっと見つめながら眉根を寄せて呟いたをターレスは一瞥したが、すぐにまた指示を出し始めた。

それはまるで、これから宴を始めるかの如く。









***









―――にゃあ

猫が、鳴いた。
とても無表情なままに。まるで今日この日のことを以前から知っていたかのように。


「・・・・不安かい?」


ゆっくりと猫を撫でながら、青年は問掛ける。
その視線は薄暗い空へと投げつけられ、そのまま微かな光を捕えた。


「大丈夫。俺には、わかっていたことだからね。」


猫の瞳が揺れる。まるで青年の身を案じているかのように。


「さぁ・・・・少し危ないから、離れてなさい。」


、と呼ばれた猫は少し不満気に尾を振ってから、足音一つ立てずに姿を消した。



すっと地面から体を離しながら、青年は考える。

かける言葉はようこそか

――――オカエリナサイ、か。






***







、俺は下へ降りる。お前はどうする。」
「だ、め・・・・降りては、いけない・・・・」


まるで何かに脅えているような表情も、ターレスにはどうでも良かった。


「なら、此処にいろ。」


そう身を乗り出したターレスの瞳が、く、と見開かれる。


「・・・・何だ、アレは・・・・」
「赤い地面・・・・・?」


ギラギラと赤く光っている。


「あれ、は・・・・・」


ギラギラとこちらを見つめる、無数の赤い――


「危ないっ!!」


一斉に上げられた両腕
そこから放たれた大量の気に、船が衝撃を受ける。


「ターレス様、一度撤退を・・・・!!」
「・・・・・出来るなら、やってみろ。」


所詮自分達は戦うしかないのだと己の身を思った時、舵を握る青年が声をあげた。


「駄目です、舵が効きません!!!」


驚く隊員をよそに、ターレスは相変わらず無表情なまま上空から地面を見下ろす。


「・・・・此処は、死の惑星・・・・・」

ふとが呟いた。


此処は、死の惑星。
入り込むことは許されぬ。
この地を発つことは許されぬ。

汝、真実を求める者よ
真実は我と共に在り
真実とは我なり



真 実 と は 我 な り




「あ、あ・・・・・っ」


何かに怯えるように、拒絶するように
は真っ赤な地面に腕を向けた。







***







かつんかつんと足音が響く。
広大な屋敷内は薄暗く、その広大さ故に寂れた城のような印象を与える。

「・・・・体が・・・・」


それまで無口だった青年が口を開いた。
胸に沈むような、穏やかで心地良い声だ。


「体が、覚えているのかもしれませんね。この惑星のことを。」


だからあのように力を放出しようとしたのでしょう、と、咎めるでもなく、淡々と呟いた。


(あの時の、あれは・・・・)


憎しみでも怒りでも悲しみでもない。
それでいて沸き上がる激情。
明らかな、拒絶。

この惑星に感じる『良くないもの』
それが何かを掴むことはできないが、しかしこの男が現れなければ自分はまた血の中で立ち竦まなければならなかっただろう―――正体はわからずとも感謝はしなければならな
い、と思った。







まるで何かに操られているかのように、けれども息をするほど自然な動作で。
は、腕を地へ向けた。全てを焼き払わなければならない衝動に襲われていたのだ。


「―――待ってください。」


突如目前に現れた、青年。
それはまさしく今の目の前を歩いている彼なのだが、その青年はの中の全ての拒絶を取り払い、不安へと薄めた。


「・・・・てめぇ、何者だ。」


ぐ、とターレスの瞳が鋭くなる。


「俺はこの惑星を守護する者・・・・部下たちの無礼は謝ります、ですがどうか戦闘を繰り広げることは避けて頂きたい。」


ターレスと、それからに青年の目が向けられる。
色素の薄さに関わらず、意思の強い真っ直ぐな瞳だと、はぼんやりと思った。


「お前、まさか・・・・・」
「・・・・貴方の求めるものは、此処にはありません。ですがこの寂れた土地も、それを得るための土台にはなり得るでしょう。」


ターレスと青年の会話が何を意味しているのか、わからなかった。
そもそも何故この目の前の青年は、ターレスが求めているものを理解しているのか。
思案するより先に、青年の手がに伸ばされた。


「・・・・約束します、あなた方に危害は加えません。さん、どうか私と共に来てください。」





――何故、その手を取ったのか。

けれど先程体が自然と全てを拒絶したように、その手を取ることもまた自分には避けられないことだと、思ったのだ。


「・・・・ありがとう、ございました。」


の声に、三歩ほど前を歩いていた青年が振り返った。


「貴方が来てくださらなかったら、私は何をしていたか・・・・」


眉根を寄せたに、青年はゆるゆると首を振る。


「いいえ、気にしないで下さい。元々攻撃を仕掛けたのはこちら側ですから。」

ふ、と微笑った青年にの心は解けたが、しかしは知っていた。
例え攻撃を仕掛けられていなかったとしても、自分はああしていただろうということを。


「さぁ・・・・こちらです。長い船旅は疲れも溜るでしょう。何もない部屋ですが、手入れは行き届いています。」


開かれた扉の向こうに見える簡素な部屋は、この屋敷に似つかわしく、広く薄暗い。


「あの、」
「食事は一日三回、使いの者が知らせに来ます。何か不便があれば、遠慮なく言いつけてください。」


あまりにも突然の展開に、は戸惑いを隠せない。
今は従うしかないのだとわかっていても、積み重なる不安におとなしくはいそうですかと返答ができない。


「・・・・彼等なら、大丈夫です。俺たちは決して手出しをしませんし、彼がいる以上彼等から手を出してくることもまずないでしょう。」


彼とは恐らくターレスを指しているのだろう。
一体何故そんなことが言い切れるのかと青年に問掛けたい気持をは押さえ付けた。

信じられなくとも、従うしか、ないのだ。

「・・・・ありがとうございます。」
「いえ。では、俺はこれで。」


扉を閉める直前、青年は振り返った。


「ああ・・・・俺の名前、言ってませんでしたね。俺の名前は、トランクスです。」




穏やかに微笑むトランクスには、その背の剣は酷く不釣り合いに見えた。