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いっそ草鞋になってみたい。 しまったと思ったときには既に遅く、晋助が一体どんな欲求だそれはと聞いてきた。 私を不可解と捉えた声とは裏腹に髪を撫でる手は優しい。行為の後、適当に着物を身につけた晋助は時折胡座をかいた足の上に私の頭を乗せこうして髪を撫でる。行為後という事実を除いても気恥ずかしいし、こういう所謂ひざ枕というのは通常は女が男にしてやるものだとも思うけれど、この男に通常が通じないのは今更だしこの時間を心地よく感じている私がいるのも本当のところだから、何も言わない。 髪をゆっくりと撫でられてまるで猫にでもなってしまったような気分になる。但し猫はこんな余計なことは言わないだろうけど。 (しまった、) 「何だ、草鞋って。」 「うん・・・草鞋は草鞋よ。」 「どうしてだ。」 横に向けていた顔を仰向けに動かすと晋助の右目が真っすぐ私を見下ろしていた。 着物なんて大層なものは気が引ける、かといって包帯は目立ちすぎるし煙管は恥ずかし過ぎる。だから草鞋になりたいのよと言えば晋助は目を細めて刀があるだろうと問うた。 「刀は・・・刀は無理よ。晋助の感情を受け止めることは出来ても、それを力に変換して誰かに向けることは私には出来ないもの。」 それに私はあんなに真っ直ぐ美しくはいられない。 だから草鞋がいい。目立たないようで、なくても生きてはいけるけれどなければ意外と困るもの。どれでもさして変わりはないようでも、長く愛用し履き慣れたもの以外は妙に扱い難い。 そうして片時も貴方から離れず貴方が望む道を歩く手伝いをし、叶うのなら貴方が望んだ地にたどり着く瞬間も貴方の傍にいたいの。 「珍しく可愛いことを言うじゃねェか。」 「・・・・私って普段そんなにかわいげないかしら。」 「いや・・・違ェな。お前にしては珍しく、どこぞの町娘のような台詞だ。」 それは褒められているのだろうか、いや間違いなくそうではない。確かに好きで堪らないから晋助と離れたくなくて、あげく彼の身につけるものになりたいなんて、自分でも脳みそが溶けてしまったんじゃないかと思う。きっと情事の後だから、私の女の部分がいつもより表面化してしまってるんだ。 「許して・・・人間、色んな顔を持ってたほうが面白いでしょう?」 「気にすんな、俺ァ今のお前も嫌いじゃねぇよ。」 くつくつと笑う晋助の唇が降って来た。身体を折り曲げた晋助は相変わらず彼の膝上に乗ったままの私の首筋に顔を埋めて、あれこれはもしかしてちょっとあんまりよろしくない展開なんじゃないかしら、と私が思うと同時に私は敷かれたまま乱れたままの布団に転がされ、・・・・・ 「え、ちょっと!」 抗議の声を上げた時には晋助は私にしっかり覆いかぶさっていた。簡単に身につけただけの彼の着物はいつも以上にはだけて、それを目にしただけで私の中の情欲がもう一度熱を発し始めるのだから自分が怖い。 「あの、ちょっと、シリアスな感じで終わろうと思ったんだけど・・・」 「そりゃ、気付かなくて悪ィな。」 「・・・・私、やっぱり人間で良かったわ。」 晋助は何だ、と顔を上げた。 「だって草鞋相手にこんなことしてる晋助はさすがにちょっと愛せる自信が・・・・」 (てめぇ、自分の置かれてる立場よォく考えて発言しろよ)(うわごめん、お願いお手柔らかにっ) |