「・・・・何・・・・?」


キラリと、綺麗な群青色の空で何かが光った。

それは希望の光か






――――その日少女は、絶望を知った。







囚われざる者 T『光』







「・・・・っ、みんな、何してるのっ!」


中心部の塔を駆け上がり扉を開くと、案の定、中には見知った顔の老人たちが静かに座っていた。



「ここももう危ないわ、早くっ」


息を整える間もなく急かす少女―――とは対照的に、ゆっくりと彼らは首を横に振った。



「儂らはここに残ります。」
「何言って・・・・っ」
「儂らのように知識ある老人は、捕虜にされる可能性が高い。奴らの正体はわからぬが・・・きっと例外ではあるまい。」


この国で最高齢とされるその老男は、落ち着いた口調で、僅かな微笑みさえ浮かべていた。

その穏やかさが意味するのは―――つまりは、自決で。


「な・・・何を言ってるの、良いから貴方たちも早くっ」


姫と呼ばれる立場である彼女にその意味するところがわからない筈はない。
わからない筈はない、ソレもまた自らの誇りを守る手段であるということは今この瞬間に痛いほどに理解している。

けれども、がソレを黙って見過ごせるような人間だったならば―――きっと、彼女は姫としては生きていなかっただろう。



「お父様、お願い皆を!!」



説得して、それから、連れて逃げて。


少女の必死な願いは、しかし彼女が最も敬愛するその願いの矛先本人によって、叶えられることはなかった。
「お父様」と呼ばれたこの星の王は先ほどの老人と同様に、否、それ以上に穏やかに首を横へ振った。



「おと・・・・、」


その横では、厳しくも優しかった母親までもが微笑を浮かべている。




――――どうしろと、言うのだ。



わかっている、わかっている。
彼らのしていることを止める権利は自分にも何者にもない。
これは今までに何度もあらゆる場所で繰り返されてきたことで、ソレを人々は「当然の行いだ」と言う。




けれど、自らを愛し自らが愛した人々を目の前に、その当然の行いを、黙って見過ごせる筈は。






「・・・・姫様!こんなところで何をっ、」
、こいつを外へ連れだしてやってくれ。」


を探してやってきたのだろう、と呼ばれるその男は王からの突然の命令に明らかな戸惑いを隠せずにいた。


「・・・・し、しかし、これは・・・・」
「・・・・・私たちは、ここに。守るために、ここに残るよ。」
「・・・・・・、」


長年王室に仕えてきたはすぐにその意味を察し、そっとその場に膝まづいた。



「・・・・どうか、御武運を。」


口にしながら、こんな言葉しか発することの出来ない無力な自分を恨んだが、しかし今はそれ以上にやらなければならないことがある。
敬愛する王から承った最後で最期の命は、例え王と同じように敬愛する彼女の意思に反するのだとしても、守らなければならなかった。


「ちょ、嫌よ、やだ離してっっ!!!」
「姫様、」
「嫌だっ、お父様、お母様っっ!!!!!」



耳を塞ぎたくなるほどの悲痛な叫びにぐっと目を閉じ、を抱えは窓から飛び降りた。



その、まさにその瞬間





「・・・・あ・・・・・あぁ・・・・・・っっ」



塔は彼女の愛する者を託ったまま目の前で眩しすぎるほどの光に包まれ、そして崩れていく。

その光は眩しすぎて、瞼に残る彼らの穏やかな表情さえ見えなくなりそうで



今にもここに崩れ落ち声を上げて泣き出したい気持ちを閉じ込めるかのように、はぐっと拳を握り締めた。






「・・・・、子どもたちは、どこ。」
「母親と共に地下に隠れているはずです。」
「見付からないという保証はないわ・・・・、貴方は此処で、神木を守りなさい。」
「姫様!?まさかお一人で・・・・!」

無茶だ、どうか神木の力を借りて隠れていてください。


吐き出そうとした言葉は、の瞳によって制された。


長年仕えてきたでさえ初めて見る―――この一族の王家にのみ代々伝わるという、赤く紅い、まさに燃えるような瞳。


「王が亡くなった今、一国の主は私です。」
「・・・・はっ、必ずや。」


但し、最大の目的は貴方自身が生き延びること。



そう言い残し、は幼子たちがいるであろう地下室へと走り出した。




***




「――――っ、」

塔が存在した場所から目的地までは、数百メートルしかない。
けれどそれはにとって最も長い数百メートルだった。

つい昨日までは沢山の笑い声で溢れていたそこには、明らかに侵略者と見られる男たちと、それから、今まで自分に笑いかけてくれていた者たちが血に塗れ倒れている姿。
きっと、もう地上には息をしている者は残っていないだろう。

天国が地獄に変わる瞬間を目の当たりにしたは涙と怒りが込み上げてくるのを感じながら、ただただひたすらに走った。




「(しっかりしろ、!泣くんじゃない、)」


泣いている場合ではない、泣くのは今じゃない
私にはやらなければならないことが―――今は、守らなくては。


長い長い数百メートルを経てようやく地下室のある一角へ辿り着いた時、既にそこには魔の手が伸びていた。




「・・・・おい、これは何だ?」
「中に何かあるんじゃないのか?食糧はあるだけ持ち帰れって話だぜ。」
「・・・・・・よし、開けるぞ。」

男が地下へと続く扉を開けようとした、その瞬間。


「待ちなさい!!」


とん、とはその扉の―――幼子たちを守る、希望の扉の上に降り立った。


「何だぁ?てめぇ・・・」


飛び降りた拍子に、ぽたぽたと血が滴り落ちた。
未来への希望を守っているその扉の上に滴り落ちたソレに、男達は明らかに優位を表す笑みを浮かべた。

「帰って、貴方達を束ねるものに伝えなさい。これ以上此処は好きにさせない、と。」
「はっ、その身体でよく言うぜ!!」





紅い瞳を一層鋭くさせ、突然現れた邪魔者を排除すべく声を荒げ攻撃を仕掛けてきた男に向けて短剣を振り落とした。






「・・・・・ひ・・・・っ、」





「・・・・首を飛ばされたくなかったら、大人しく帰って伝えなさい。」

右手首を飛ばされた男の返り血を浴びながら、その血と同じ紅い目は『これ以上仲間を殺されたくなければ』と伝えた。

そこでようやく男達は気づいた。
彼女から扉の上へと滴り落ちた赤い液体は、彼女自身のものではなく、全て彼らの同胞の物であったのだと。



「・・・て、てめぇ・・・・・っ!!!」


「やめとけ。」


目の前で仲間の手首を飛ばされ逆上したもう一人の男は、後ろから聞こえてきた別の男の声に動きを止めた。


「お前らの適う相手じゃねぇ。」
「し、しかし・・・・」
「外の奴らを見なかったのか?死にたくなかったら大人しく戻ってろ。」

手首を失った仲間を担ぎ逃げていく部下には目もくれず、その男は冷たい目で目の前の血に塗れた少女を見下ろした。



「・・・・貴方が、やったのね・・・・?」
「別に俺が直接手を下したわけじゃねぇけどな。」

くっ、喉を鳴らした男の言葉に、は今にも相手に飛び掛ろうとする自分を抑えることで精一杯だった。


「何てことを・・・・っ」


必死に涙と激情に流されてしまいそうになる自分を押し殺し、今唯一自分がしなければならない―――この下にある希望を守るために、怒りに震える声を振り絞った。

「何が、望みなの・・・・」
「・・・神精樹を植えることが目的だったが、ここはアレを植えるのには向かねぇ。こいつらを殺ったのは俺じゃねぇが・・・・」

『元々、血の気が多いタチなんでね。』
殺す必要はなかったけれど、欲望のために殺したのだ、と。





口端をあげた男に、の怒りは彼女自身を凌駕した。






「ふざけるなっっ!!!!」
「っ、と・・・・・・・何!?」

軽く避けたつもりだったが、は信じられない速さで切り返し、僅かではあるがその怒りはターレスの腕を捕らえた。


「・・・・俺様に傷を付けるとはなかなかじゃねぇか。」

傷を負ったにも関わらずどこか楽しそうな男を目の前に、怒りと共に得体の知れない恐怖を感じずにはいられなかった。


「(ひるんでる場合じゃない、コイツをここから離さないと・・・・っ)」




「折角だから遊んでやりたいところだが・・・・生憎、そこまで暇じゃないんでね」




「うぁ・・・・・っ」



『少し大人しくしてな』


相変わらず楽しそうな声と共に与えられた激痛に、はその場に蹲った。

「(駄目、今目を閉じたら、この子達が・・・・!!)」
「・・・・ちっ、しぶてぇ奴だな。」




今にも飛んでしまいそうな意識を必死で掴むの腹部に、無情にももう一度激痛が与えられる。




放物線を描きどさりと落ちたの瞳が今度は完全に閉じられているのを確認してから、その力の抜け切った身体を抱え上げ

「・・・・・・命拾いしたな。」


――――お前らの姫さんは貰ってくぜ


ターレスは地下へ続く扉にくっと笑みを残してから、自らの本拠地へと足を進めた。









第一話、しかし何とも寒い話であります。
今までシリアス風味の話はせいぜい30行ぐらいのものしか書いたことがなかったので改めて難しいな、と。

取り敢えず、頑張れヒロイン、負けるなヒロイン。


→next