ぐん、と突然体に重力がかかった。


「何・・・・っ、」


反射的に部屋に設置されている大きな窓へと顔を向けると、それまで唯の暗闇でしかなかった外の風景が変わっているのに気付いた。

「・・・・・まさかっ」


は勢いよく扉を開け、恐らくはその指示を出したのであろう男の元へ、向かった。






囚われざる者 W『儀』





「ターレスっ!」

が探していた男は白い布を被ったままただじっと外を見ていて、そしてそれはの憶測を―――出来ることならば外れて欲しかった推測を、確信へと変えた。


「何をする気!?」
「見ての通りだ、降りる。」
「あなたまさか・・・」
「・・・・あぁ、何だ、お前心配しているのか?安心しろ、少なくともこれ以上お前のような哀れな人質は取らねぇ。」

―――その代わり、皆殺しだ。



「な・・・・駄目よ、やめて!それだけはやめて!!」
「っと・・・・そう怒るなよ、綺麗な顔がもったいねぇだろ。」


非情な言葉を耳にした瞬間怒りを露にしたの顎をくっと持ち上げる。

無論、その怒りと不安に満ちた瞳すら、ターレスは美しいと思うのだけれど。


「おい、開けろ。」
「はっ?」
「扉だよ。俺は先に降りる。」
「しかしまだかなり高度が・・・・」
「飛ぶことのできる俺たちにはさして問題じゃねぇよ。」


ターレスのその言葉に、ダイーズはおとなしく扉を開いた。

「っ、」
「おっと」

突然の強風に煽られ一歩足をさげたの腰にターレスの腕が回る。

「何を、」
「お前も来るんだよ。」


驚いた表情で見上げてくるには目もくれず、そのまま白い布をなびかせて飛び出した。










「・・・・おい、目を開けろ。」


元来生身で空を飛ぶ能力を持たないは風の抵抗に目を閉じていたが、自分を引き寄せたまま悠々と飛んでいる男の声におとなしく従い、そっと目を開けた。


「よく見ておけ、吐き気がするほど穏やかなこの星が荒廃していく様をな。」
「だ、駄目っ!!」

叫ぶより早く、翳した左手から放たれた光弾が山一体を焼き払った。


「何てことを・・・・・っ!!」
「お前ほどの力があれば、この星を破壊することぐらい造作もないだろう。何をそんなに脅えている?」

或いは無機質とさえ見える瞳が、時として燃え上がらんとする程に変化するちかこの瞳を捉えた。



オビエテイル

力に?破壊に?彼に?自分に?


―――否!



「脅えているんじゃない、私はそんな力に興味はない!強くなりたいのならいくらでも強くなればいい、でもその強さを手に入れ証明するためのこれ以上の犠牲は不必要よ!!」


ぐっとターレスの腕を腰からほどき、はそのまま地上へと落下していった。




「・・・・・愚かな女だ。」

―――力がなければ、何かを守ることすら出来ないのに。




***




(早く知らせなきゃ、)

あの高さから落下しても傷一つつけず着地した自分の身体能力に幾許かの驚きや疑問が生じたが、今はそれどころではない。
標的を定めた以上、彼らは何としてでもこの地に神精樹を植え侵略を開始するだろう。
自分の力では彼等を止めることが不可能だということは、船内で自らが起こした反乱によりわかりきっている。

(だとしたら)

そうであるならば、人々を此処から逃がす他はない。

(早く、早く、早く・・・・・)

は、ただただひたすら走った。
猶予はたったの一刻も、ない。








「女、待て!」

森を抜けようやく人里が見えてきた頃、低い男の声が耳に入った。
振り向くと彼は銃を構えていて、どうやらこの地の警護兵らしかった。

「この星には許されたものしか立ち入ることができない。お前は何者だ?」
「ぁ・・・・ごめんなさい、決して貴方たちの地を侵すつもりはないの。」

男は銃を構えたままをじっと睨みつけている。
当然だ、これでこの男が銃を下ろすようなら、それは警護兵としての意味を成さない。

(どうしよう)

一刻の猶予もないことはわかっているが、彼に侵略者の存在を告げたところで話を聞いてはもらえないだろう。
彼にとっては、自分もまたその侵略者の一人として写っているかもしれないのだ。

(・・・そうだ、これなら!)

「・・・・・この紋章に、見覚えはありませんか?」
「何?」

男は警戒を解くことなく、が掌に乗せたピアスをじっと見つめる。

「・・・・・これはまさか、」
「私は惑星リーンの主、と申します。どうか、貴殿方の王への謁見をお許し頂きたい。」
「これは・・・・申し訳ありません!」

男はさっと銃を下ろし膝をついた。

「構いません。王はどちらにおられますか?」
「この里を突っ切った所に、城があります。王はそちらに。」
「ありがとう。・・・・・貴方も、早く逃げてください。」
「は?」
「たった今侵略者がこの星へ降り立ちました。信じられないかもしれないけれど・・・・どうか、すぐにこの星から逃げてください。」

母星を離れるのはとても辛いでしょうけれど、と一瞬だけ目を伏せ、は城を目指すべく再び走り出した。









「待てっ、貴様何者・・・・うわっ」
「お、おいっ!!」
「ごめんなさい、でも時間がないの!!」

止める門番を押し退け振りきり飛び越え、恐らくは奥にあるであろう王室へと向かった。




「王様っっ!!」
「・・・・何だ、そなたは。」


扉の向こうに座っていた彼は立派な尊敬に値する王なのだと、は一目見てそう確信した。

威厳と慈愛に満ちた表情、何をも恐れず動じぬ仕草、しかし民のためならば銃を取り侵略者を殺めることをも厭わぬ心。


「突然の御無礼、お許し下さいとは申しません。ですが、どうか私の話を聞いて頂きたいのです。」
「名は何という。」
「私は、惑星リーンの主、と申します。」
「何・・・・惑星リーンだと?しかし、惑星リーンの主は王であった筈だが・・・・」

多少ながら交易があったのだろう、そう遠くない記憶とは違う主の顔を、王はまじまじと見つめた。

「とある侵略者の存在により、王は・・・王や王妃、それに民もその多くが命を落としました。
 正式な儀式は行っていませんが、その時より私が主となりました。」
「何?・・・・・確かに、そなたのつけているピアスは正当な主だけがつけることのできるものだが・・・・良かろう、話してみなさい。」

そう言われ下げていた頭を上げるなり、は今にも泣き出しそうな表情で話し出した。

その瞳に嘘偽りはない。

浮かんでいるのはただ、願いと不安と過去への懺悔。






***





「ターレス様、まだ攻撃は仕掛けないんですかぇ?」
「神精樹を植える場所は見付かったのか?」
「いえ、それがまだ・・・・俺らはここでいいっつってんですけどね、ダイーズ様のお気に召さないみてぇで。」
「アイツは植物に関しては長けているからな、侵略は神精樹を植えてからだ。」
「へぇ、わかりやした。」

(そういえばあの女の星も緑豊かだったな)


ふ、とターレスは地面から離れた。
遠くに、慌ただしく動き回る人々の姿が見える。


(・・・・成程、異星の奴らをも説得したか。権力の威力、というやつだな。)

「お前のその健気さはある意味尊敬する・・・・が、逃がされちゃ、ちょっと面白くねぇな。」

つい先程、部下にはまだだと言ったばかりだが

ゆっくりと、まるで何かの儀式でも始めるかのように、ターレスは右腕を翳した。






***






「第一船体、いいか!?」
「大丈夫だ、止め縄をとけ!!」
「・・・・・・よし、いける!」

(何とか、何とかあと五機・・・・!!)

王がの話を受け入れてからの動きは、それはもう敏速であった。
衛兵に知らせ民に知らせ、ものの五分も経たないうちに民衆を乗せた第一の船が飛び立った。

受け入れたとはいえ未だ実感の湧かない王であったが、が「避難船は長旅はできない、一度惑星リーンへ行き事情を話して留めてもらえばいい」と口にしたことで、その信頼は確実なものとなった。


殿、」
「王・・・・すみません、静かな惑星を騒がしくしてしまって・・・・」
「いや、そなたの謝ることではない。寧ろ、私たちは感謝してもしきれないぐらいだ。」
「いいえ、いいえ違うんです。」


私には、感謝を受ける資格なんてないんです。




「―――っ、危ない!!!!」





突然鳴り響いた轟音に、の言葉は掻き消された。



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