にとって、それは悲劇と絶望の再現であって

ターレスにとって、それは唯の行動の開始に過ぎなかった。






囚われざる者 X『能』





「王、人民の確保は!?」
「船はあと一隻、それ以外は全て満員で発している!」

その、残りの一隻に乗船するべき人々は、炎の中を逃げ惑っている。
彼らを船へと誘導しながら、現状を確認しながら―――は自らの無力さを嘆いていた。

(浅はかだった・・・私だけがここに来たら彼らを野放しにするも同然だったのに・・・!!)

彼女が一人で此処へ来たからこそ、人々は脱出することができた。
けれど今のこの現状を目の前にして、その事実に気づくことが出来るはずもない。



「王、どうか貴方も船へ!」
「何を馬鹿な・・・私も此処に残るに決まっておるだろう!そなた一人を残して行ける筈がない!!」
「なりません!!」

炎の中から逃げ出してきたのであろう、抱えていた呼吸が浅く力も抜けきってしまっている少年を王に引き渡しながら、は真っ直ぐに王の目を見つめた。

「貴方が・・・貴方が此処に残っては、彼らは誰を標として生きていくのです?民のことを思うのが王であるならば、どうか、彼らと共に行って下さい。」


―――私は、母なる星を捨てて、殺戮者と共に、もうこんなに遠い所にまで来てしまいました。
―――私の手は、彼らと同じように血で汚れ、最早清められることはないでしょう。


「此処でお会いしたのも何かの縁・・・だからせめて、同じ星の主として、貴方には生きて彼らを導いて欲しいのです。」
殿・・・・」
「先刻の攻撃は、間違いなくターレスが放ったもの・・・直に彼の部下が此処を襲撃に来る筈。さぁ、どうかお急ぎ下さい。」
「しかし、」
「・・・・手を汚すのは、私だけで十分ですから。」

嗚呼、この少女は、何と重い悲劇と恐ろしい現実を背負っているのだろうか―――

そう、王が悲嘆したその時である。



「逃がすな、船を狙え!!」

突然の怒号には振り向いた。

「いけない、もう来てしまった・・・・王、早く!!」


船を狙う集団の足元に光弾を放ち足止めを食らわせながら、半ば押し込むような形で王を船に押し乗せた。

「これで全員ね!?」
「あぁそうだ!!」
舵を取るのだと思わしき人物のその一言に、の顔に少しだけ安堵の色が浮かんだ。

殿、申し訳ない・・・・」
「王・・・懺悔の代償、というわけではありませんが、一つだけお願いしたいことがあります。」
「私に出来ることであれば・・・・」
「惑星リーンには、という王室に仕える男がいます。どうか彼に、私が無事であることを伝えて欲しいのです。」
「わかった。必ず、伝えよう。」


ありがとうございます―――


懺悔の表情で告げた感謝の言葉は、扉を閉める音に掻き消された。



「止め縄を解くには少し手間がかかりそうね・・・・」

両手に気を集中させているの瞳は、赤く紅く燃え上がっていた。




***



「ダイーズ、」
「ターレス様!」

ダイーズは、突如として現れた主の気配にはっと顔を上げた。

「ターレス様は、向こうへは行かれないんですか?」
「今はまだいい。」
「そうですか。・・・あぁ、神精樹でしたら、無事此処に植えることが出来ましたよ。」
「そうか。」

ふと、遠くで何かがぶつかり合う音が聞こえた。


殿・・・でしょうか。」
「だろうな。」
「宜しいのですか?」
「何がだ。」
「彼女を捕えなくて。」
「・・・・・ダイーズ、お前、サイヤ人の特性について知っているか?」

遠くで多くの光が上がるのを見詰めながら突然何の脈略もない問いを投げかけたターレスに、ダイーズの表情は要領を得ないものとなった。

「サイヤ人・・・ですか?いえ、余り詳しくは・・・」
「サイヤ人は、瀕死の状態を彷徨う度に戦闘力が上がる。戦い、傷つくたびに己の力も高まっていく。」
「はぁ・・・・」
「アイツの場合は、己の力を使う度にその戦闘力が上がっていく。」
殿が?」

ダイーズは、今まで全く気づかなかった事実に目を見開いた。

「その証拠に、初めて俺に向かってきた時より、今の方が断然戦闘力が高い。」
「それは・・・全く気づきませんでした。」
「あいつの場合、力を解放した―――瞳が赤いとき以外の戦闘力は殆ど一定だからな。力を解放しているを見る回数の少ないお前にはわからなくても当然だ。」
「では、今この戦いにおいても彼女の戦闘力は上がっていっていると?」
「だろうな。・・・全く、皮肉なものだ。」

ターレスは腕を組んだまま相変わらず無表情で―――否、どこか楽しそうですらあり、言葉とは裏腹にそこには哀れんでいる様子など微塵も感じられない。



戦う度に、は強くなっていく。
戦う度に、人を殺める術を磨いていく。

は、命を奪うことに耐えられない。
は、命を奪うことに耐えられないから、自分の手が血に塗れていく度に、その身を焼くほどに自らを責め自らを憎む。

の悲しみと憎悪が深ければ深いほどに、まるでソレに比例するかのように彼女の人を殺める能力は高まっていく。



「・・・・殿は、本当に戦闘民族ではないのですか?」
「本当の所はどうかわからん、だが少なくとも俺達のように戦闘を好むというわけではないらしいな。」
「では一体、何のためにそのような力があるのでしょう・・・・」



何故、まるで悲劇を助長させるかのように、にそんな能力が授けられているのか?





(まさに神のみぞ知る・・・・・そしてその神の鍵となるのが、アイツだ。)

「・・・ダイーズ、お前も来い。大した奴らが残っているとは思えないが・・・少しは欲求も晴れるだろう。」
「はっ、喜んで。」

二人は軽やかに地面を蹴り、先程から遠くで鳴り響いている轟音に騒ぐ血を宥めるべく、混乱の渦巻くその場所へと向かった。




***



赤い瞳が、敵を捕える。

右、左、後ろ、前

確実に、着実に向かってくる敵を倒していく。

(最悪だ・・・・・)


ほんの一瞬の隙をついて、何とか止め縄を外すことが出来た。
船が完全にこの星から脱出するまで、何とか敵の攻撃から守らなければいけない。


生半可な攻撃では、彼らの足を止めることすら不可能だ。


(だから―――?)


だから、殺すのか。
自分が守りたいものを守るために、目の前の彼らを、殺すのか。


(もう、いいでしょう!?)

「もう・・・・もういいでしょう!?こんな無意味な戦闘は・・・!!」
「はっ、さすがお姫様、言うことが甘ぇんだよ!!」


本能として戦闘を望む彼らに、の言葉は届かない。
だからは戦い続けなければならない。

自分が生き延びるために命を奪うことがどれだけ卑劣で愚劣な手段であるかを知っていても、それでも尚戦い続けなければならない。

を縛り付ける、嘗てターレスが口にした言葉。

『死にたければ死ねばいい、但しその後お前の惑星がどうなってもいいんならな。』

(・・・・それに、)

それに、誓ったから。
あの日、「必ず帰る」と、誓ったから。









(キリがない・・・・)

は、心身ともに限界に近づいていた。
出来るだけ殺さないように手加減をしているものの、それではこちらが先に倒れてしまいそうだ。

「どうすればいいの・・・!!」

この戦いをとめることが出来るのは、きっと主であるターレスだけだ。
けれど、果たして彼にこの戦いを止める気があるのか?

このままじゃ全滅だ、と嘆いた。







(―――え!?)


それは本当に、空気を伝わらぬ嘆きにすら掻き消されてしまいそうな程の微かな音。

けれども、確かにの耳に赤子の鳴き声が届いた。


「・・・・・・・・まさか!」


は敵に背を向け、未だ炎が燃え盛っている中、原型を留めていない家屋へ向かって走り出した。





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